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「ズッコケ三人組」シリーズ完結へ 児童文学作家那須さん、来月「熟年~」刊行 

平和で自由な社会訴え

 シリーズ累計2500万部に達し、戦後の国内児童文学随一のベストセラー「ズッコケ三人組」。その続編として、2005年から続く「ズッコケ中年三人組」シリーズが12月初めに発売される新刊「ズッコケ熟年三人組」(ポプラ社)で完結する。生みの親で、広島市西区出身の児童文学作家、那須正幹さん(73)=防府市=が、着地に選んだ題材は昨夏の広島土砂災害。郷土に思いをはせ、復興に向けた希望の物語を紡いだ。(石井雄一)

 那須さんの生まれ故郷をモデルにした稲穂県ミドリ市が舞台。市議会議員でコンビニ店を経営するハチベエ、中学校の社会科教諭ハカセ、インテリア会社員のモーちゃんの3人が、今作で50歳を迎える。

 ハカセは新年度、市内北部の阿賀南区にある中学校に赴任。夏休みの最中に同区で土砂災害が発生し、教え子を捜して被災現場や避難所を訪ね歩く。ハチベエは議員団の視察で被災地を巡り、モーちゃんは倒壊した家屋に家族が取り残された会社の元同僚を見舞う。

 「災害の悲惨さを強調したかったわけじゃない。災害に負けずに頑張ってほしいというエールを送りたかった」と力を込める。物語では、避難所の子どもたちが「希望新聞」と題した壁新聞を張り出して住民を勇気づけたり、モーちゃんの元同僚が悲しみを乗り越え、一度は退職した職場に復帰したり。それぞれが一歩を踏み出す姿も描いた。

 70年前の父の姿も重ねた。原爆が投下された時、父茂義さん(1978年に79歳で死去)は、広島電鉄家政女学校の教師だった。2週間家に帰らず、焼け野原の中、教え子を捜し回った。「その時の話は何度も聞かされとったからね。責任感が強かったんじゃと思う」。ハカセはもともと、那須さん自身がモデル。6月には被災地を訪れて取材し、生徒を案じる教師たちの姿に思いを巡らせた。

 小学6年の3人が力を合わせて冒険したり、事件に立ち向かったりする「ズッコケ三人組」シリーズ。78年の第1巻から04年までに計50巻。05年からは40歳になった3人のその後を、中年シリーズとして毎年出版してきた。「学習雑誌の連載から入れると約40年。やり遂げてホッとしたという気持ち」。最終巻を手にそんな心境を明かす。

 那須さんは3歳の時、爆心地から西約3キロの自宅で被爆。その体験が創作の原点になっている。「3人があれだけ元気で駆け回れるのは、日本が平和で民主主義の国だから」。中年シリーズも、その信念が底流にある。だが、今作の執筆中に安全保障関連法が成立。那須さんは、あとがきでこうつづった。

<もしかすると「戦前」となるかもしれない時代に、とても三人組の物語を書き続ける気になれない>

 3人が活躍する平和で自由な社会が続くように―。那須さんからの警鐘ともいえる。シリーズ完結後も自らできることを続けていくつもりだ。「8月6日に亡くなった人のためにも僕らが頑張らないと」。そう決意を新たにする。

 「ズッコケ熟年三人組」は240ページ、1296円。併せて、「ズッコケ中年三人組」シリーズの1巻目が文庫(288ページ、670円)で刊行される。

(2015年11月28日朝刊掲載)

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