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連載・特集

『生きて』 核物理学者 葉佐井博巳さん(1931年~) <13> 国民保護計画

「廃絶しかない」核兵器

  国が有事法制で自治体に策定を定めた国民保護計画で2007年、広島市の「核兵器攻撃被害想定」専門部会長として報告書をまとめた
 原爆が今の市街地に落とされたら、約60倍の1メガトンの水爆だったら…。4パターンを想定して被害を試算しました。米政府が出した「核兵器の威力」(1977年刊)の計算式も使い、放射性降下物が風向きでどう拡散し、放射線量は時間ごとにどうなるかも示しました。

 報告書は市のホームページに載っています。ぜひ読んでほしい。死傷者数は最小限でこれくらいという推計であり、実際は計り知れない。結論で記したように、核攻撃から市民を守ることはできません。核兵器そのものを廃絶するしかないんです。

 防護策を唱える広島大出身の研究者もいます。地上を放射化する誘導放射線には地下街などへ逃げろと。それには全部を密封するしかない。すると換気はできない。逃げようにも道路は炎上した車でふさがれている。核兵器から守りきれるというのはばかげた想像です。被害想定を考えること自体、今も嫌ですね。

 市独自の専門部会を引き受けたのは、こんないきさつがあるんです。国民保護計画の所管が消防庁だったので、初めは市消防局から要請された。すると「市長が人選するので」と断りがあった。その前の市長さんのころ被爆建物等継承方策検討委員会(91年設置)に入ったことはあるが、当時の市長さんとは面識もない。そうですかと済ませていた。

 ところが、庄野直美さん(物理学者)が「推薦しといたから」と何度も電話をよこされた。広島一中の先輩は議論に耐えられる体ではなかった。それで私となったわけです。

 なぜ、嫌だったのか。広島市は核兵器廃絶を訴えているのに防護というのは核を認めたことになる。市長さんに呼ばれた時にもそう話した。部会(06年設置、委員8人)の議論には口は挟まれなかったですね。

 ひとたび核兵器が使われたら対処のしようはありません。廃絶だと言う以上、私なりに責任がある。研究者や、広島への修学旅行生に被爆体験も話すようになった。本当の意味での防護を諦めていないからです。

(2015年11月28日朝刊掲載)

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