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社説・コラム

ビジネスなう 中外テクノス(広島市西区)社長・福馬勝洋氏 福島第1原発の廃炉作業ロボット

開発拠点をつくる理由は

困難さ肌で感じた社員の使命感契機

 ―工場や橋、トンネルの検査サービスが主力事業です。それなのに東京電力福島第1原発の廃炉作業に使う遠隔操作ロボットの開発拠点を来年5月の開所を目指して広島市佐伯区に建設しています。なぜですか。
 きっかけは福島第1原発を目の当たりにした社員の使命感だ。原発を検査、補修する装置を開発してきた実績を買われ、事故後に現場を調べるロボット開発の一部に携わった。操作法を教えるため福島を訪れた社員が、廃炉の困難さを肌で感じて「何かやらなくては」と訴えてきた。それを聞いて今春、約15億円の投資を決めた。売上高132億円のわが社には分不相応だが、腹をくくった。

 ―建設中の拠点では、どのように廃炉作業のロボットを開発するのですか。
 拠点には、福島第1原発の原子炉格納容器の一部を実物大で再現した試験棟を構える。今は原子炉の底の型枠を造っているところだ。この施設を活用して原子炉周辺で作業できるロボットを開発する。具体的にはこれからだ。放射線を使った実験はしないが、実際の場所と近い環境で試験できるようにする。  わが社は従来、火力発電所で、設備を動かしたまま検査や排水の点検をする事業を手掛けてきた。1980年代後半、原発に応用できないかと声が掛かった。原子炉の溶接部分のひびなどを調べる装置の開発・製造を始めた。福島第1原発の廃炉作業でも、これまでの技術の蓄積を生かせるはずだ。

「広島発」の技術で国の課題解決図る

 ―関東や関西など全国に事業所を展開しています。なぜ開発拠点を広島につくるのですか。
 原発関連の装置開発を担っているのが、会社全体の中で広島だけだからだ。新しい拠点に集約して人員も5人程度増やし、開発のスピードアップを図る。場所も交通アクセスが良い産業団地で、地盤の固い所を選んだ。昨今の人手不足で、人材確保には苦労している。だが、広島発の技術が国の課題解決の一助を担えるよう体制を整えたい。

 ―日本では今後、廃炉になる原発が増えます。開発するロボットは、そうした原発にも使えますか。
 福島第1原発の廃炉には2兆円規模の費用が準備されているが、事故を起こした原発向けに開発するロボットは、他の原発の廃炉には転用しにくい。今は社会貢献の側面が強い取り組みだ。しかし、この経験は将来、別のビジネスでも役に立つと考えている。

 ―主力の検査サービスは東南アジアでの事業を強化していますね。
 国内は橋やトンネルといったインフラ関係の需要は増えるだろうが、新設が減っている工場などの検査は伸びしろがない。一方、日系企業が製造拠点を増やしている東南アジアは見込みがある。そう考えてベトナムに2年前、排ガス処理装置の性能調査などをする会社を設けた。ことしは国際協力機構(JICA)の事業に採択され、インドネシアの同業と連携を始めている。(文・堀晋也、写真・宮原滋)

ふくま・かつひろ
 同志社大工学部卒。東京のコンピューター輸入販売会社勤務を経て75年、中外テクノス入社。専務、副社長を経て94年2月から現職。70歳。三原市出身。

(2015年11月29日朝刊掲載)

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