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社説・コラム

社説 ロシア・トルコの対立 「イスラム国」利するだけ

 トルコによるロシア軍機の撃墜事件以降、両国の溝が深まっている。首脳による非難の応酬は、相手国への経済制裁に発展し、緊迫の度を強めている。

 懸念されるのは、対立の影響が2国間にとどまらないからだ。過激派組織「イスラム国」に向けて築かれつつある国際包囲網に、水を差す恐れがある。

 今、何を最優先すべきか。テロ攻撃を拡大させる「イスラム国」に、対抗していく国際連携であることは明白だろう。シリア内戦を収拾する道筋もつけなければならない。

 ロシアとトルコは、その点を冷静に見つめ、自制することが求められる。国際社会も対話を促して、結束の機運を逃さぬよう、努めるべきだ。

 事件は、シリアとの国境付近で発生した。ロシアの戦闘機が領空を侵犯したとして、トルコ軍機が攻撃し、撃墜した。脱出した乗員1人がシリア反体制派に射殺されたという。

 トルコのエルドアン大統領は「退去するように何度も警告したが侵犯を続けた」と攻撃の正当性を主張した。一方、ロシアのプーチン大統領は警告はなかったとしたうえで、「テロの共犯者に後ろから撃たれた」と強く非難してみせた。

 両国の主張は真っ向から対立しており、真相はやぶの中だ。感情的な対立から事態をエスカレートさせないよう、まずは事実を突き止め、冷静に対処することが求められる。

 にもかかわらずロシアが経済制裁に踏み切ったのは遺憾である。28日に署名された大統領令には、トルコ国民に対するビザ免除の撤回、トルコ産商品の輸入制限などが盛り込まれた。

 トルコ側も対抗して、国民にロシアへの渡航自粛を呼び掛けているようだ。

 悪化の一途をたどる両国関係に懸念は拭えない。だが、もともと素地はあった。内戦状態のシリアをめぐる思惑の違いである。「イスラム国」掃討の名を借りて、それぞれ独自の軍事行動を続けている。

 ロシアは、化学兵器使用など国際法違反が疑われるアサド政権の後ろ盾となってきた。空爆では、反アサド勢力をも標的にしているとされる。

 これに対し、米国など有志国連合の一員であるトルコは、反体制派を支援する。一方で独立を目指す国内のクルド人勢力には攻撃を加えてきた。

 そのような思惑の違いを超えて、各国を対テロ共闘へと動かしたのが、パリ同時テロだ。

 フランスのオランド大統領は対テロで国際協調へ、米国やロシアとの調整に奔走した。共通の敵「イスラム国」掃討への連携が醸成されつつあった。

 その機運がしぼむようなら、「イスラム国」を利するだけである。亀裂の隙を突かれ、パリのような卑劣で衝撃的なテロの再発を許しかねない。

 ロシアとトルコの対立は、シリア内戦の解決へ多国間協議で合意した、半年以内の移行政権樹立という流れまで怪しくなるのではないか。

 両国の緊張緩和と国際連携の確立へ、日本も外交努力を続けたい。仲介役へ安倍晋三首相は意欲を見せているという。成否は未知数だが、新たな火種をつくるわけにはいかない。米欧などと連携してあらゆる手を尽くさねばならない。

(2015年11月30日朝刊掲載)

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