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社説・コラム

『この人』 ペスタロッチー教育賞を受賞したノートルダム清心学園(岡山市)の理事長 渡辺和子さん 苦難で気付いた優しさ

 自身の体験から紡ぎ出す言葉が、多くの人に勇気を与えている。「タンポポはタンポポで、バラはバラでいい。あなただけの花を咲かせればいい」。広島大(東広島市)で1日あった受賞記念の講演。あふれる涙を抑えられない人もいた。

 カトリックのシスター。ノートルダム清心女子大(岡山市)では、88歳の本年度前期も授業を受け持った。学生に自らの苦難もさらけ出す。「私は劣等感を抱いて生きてきた。その弱さが学生の救いになっているのかも」とほほ笑む。

 壮絶な人生といえる。9歳のとき、陸軍教育総監の父が二・二六事件で凶弾に倒れるのを目撃。父に恥じぬようにと厳しくしつける母の下で成長し、周囲に高慢な態度を取ってしまう自分を変えたいと18歳で洗礼を受けた。

 36歳で同大初の日本人学長に任命され、重圧と風当たりの強さに負けそうになった。救ってくれたのは英語の詩の一節だった。「置かれたところで咲きなさい」。ベストセラー本となった自著のタイトルにも用いた。環境に不満を持ち、他人の出方に一喜一憂する自分を変えた。50代ではうつ病も経験。それでも「人生に開いた穴から吹く風の冷たさによってだけ、他人の優しさに気付ける」と語る。

 受賞会見で学生に何を望むか問われ、「自分の頭で考え意思決定し責任を負うという、一人格としての在り方をもっと大事にしてほしい」と回答。「夫も子どももいない私にとり一番大事な存在」と強調した。講演では「あなたらしく生きることがあなたの使命」と学生も含む聴衆に訴えた。(新本恭子)

(2015年12月2日朝刊掲載)

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