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連載・特集

『生きて』 核物理学者 葉佐井博巳さん(1931年~) <14> 被爆証言

記憶継承へ 育成を提唱

 自らの被爆体験を70代後半から証言する。継承を呼び掛け、広島市に人材育成を提言していった
 市の広島平和文化センターに所属する被爆体験証言者として活動を始めたのは2008年です。それまでは原爆資料館の「ピース・ボランティア」(1999年に開始)に放射線の影響などについて話していた。証言活動を自分もするとなると勉強が要ります。修学旅行生への体験講話を聞いて回りました。被爆者であっても、ヒロシマを語り伝えることが難しくなっている。その現実を強く感じました。

 証言できる内容が限られている。なぜなら被爆当時は子どもだったからです。無残に子を奪われた悲しみを語れる親たちは今、ほとんどいません。生死を非情に分けた動員学徒の体験でも、年少だった私らが最後の世代となる。現在の証言者の多くは、聞いた親家族や年長者の体験に支えられているともいえます。

 原爆のむごさや、核兵器の非人道性を、若い世代にどう伝えていけばいいのか。ピース・ボランティアらと話し合う中から、「ヒロシマ継承の会」という勉強会を主宰し、資料館で8回ほど開きました。今は亡き被爆者の証言ビデオも見て、参加者と議論を深めました。

 体験の継承は不可能である以上、被爆者の記憶を語り継いでいく。想像ではなく起こった現実に立ち、平和への思いも伝える。そうした人材を育てるべきだ。資料館の「資料調査研究報告」で提唱しました(10年刊の第6号に収録)。また、市が被爆5年後に募った「原爆体験記」に着目し、全165編の手書き原稿を電子データ化して松井一実市長に託し、活用を要請しました。

 市は「被爆体験伝承者」と呼ぶ育成事業を12年度から開始。3年間の研修を終えた1期生49人が活動する
 伝承者は研さんを積み、英語で説明する人もいます。ただ、研修で付いた証言者(現在49人)の話にどれだけ忠実かが優先されている。事業者側が細かく指導もするからです。同じ話を繰り返す必要があるのか。原爆で殺された人たちは言い残すことすらできなかったんです。ヒロシマそのものを学び伝える。そのことが何より大切だと思います。

(2015年12月2日朝刊掲載)

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