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G8議長サミット ヒロシマの声届いて 被爆者が体験語る

 平和と軍縮について討議するため、主要国(G8)の立法府リーダーが結集した2日の下院議長会議(議長サミット)。舞台となった広島では、被爆の実相を知ってもらえるという期待、議長の肉声が伝わってこないもどかしさが交錯した。原爆を投下した米国をはじめ、世界の核兵器の大半を保有する四カ国の指導者に、ヒロシマの声は届いたのか-。

 午前九時すぎ、原爆資料館(広島市中区)の展示のコーナー。「原爆は本当に憎いが、憎しみで憎しみを消すことができない」。元館長の高橋昭博さん(77)=西区=は、あの日の惨状を描いた絵を議長たちに見せ、被爆体験を語り掛けた。

 傍らには炎の中をともに逃げ、亡くなった級友の遺品の制服、変形してとれた自身の黒いつめ。「米国とロシアがまず核兵器廃絶へ強い意志を世界に示してほしい」。63年前の体験とその後の苦難に基づく訴えに、議長たちは真剣な表情で聞き入った。

 その中に、投下国から訪れたペロシ米下院議長の姿もあった。

 米国から被爆地を訪れた過去最高レベルの要人として、言動が注目されたペロシ米下院議長。公開の場で投下などに関する発言はなかったが、資料館視察を案内した前田耕一郎館長は別れ際に声を掛けられたと明かす。

 「ミスター タカハシ イズ ビューティフル(高橋さんは素晴らしい)」。被爆証言者への感動の言葉だった。

 日本の河野洋平衆院議長を除き、初めて被爆地を訪問した各国議長。原爆に命を奪われた大勢の市民の冥福を祈る場所で、予定外の行動が起きた。資料館見学を控えた原爆慰霊碑前。一人一人が献花台に花を手向けた後、全員が手をつないで碑に向き合ったのだ。

 碑に続く道の脇には歓迎の子どもたち。後方から献花を見守った広島県被団協の坪井直理事長(83)は「いろんな思いが駆け巡った。どんな人でもあそこに向き合うことが大事。いわんやアメリカがね」と晴れやかに語った。一方、もう一つの県被団協の金子一士理事長(82)は「どこまでわれわれの思いが届いているか分からない」。手応えをつかみきれず、唇をかんだ。

 議長たちの意見交換が終わった夕、中区のアステールプラザで市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」のフォーラムは、非公開だったサミットの議論開示を求める特別決議を採択した。河合護郎共同代表は「いかに核兵器廃絶を進めるかという議論にならないと困る」。

 前日、福田康夫首相が辞任を表明。国内政治の行方が不透明になる中、被爆地のサミットは予定通り進んだ。  「歴史的な会合への関心が薄れ、水を差された」と残念がる声もある中、資料館の前田館長は「国内的にはそうかもしれない。でも主要国議長が広島を訪れた意義は薄れることはない」と言い切った。

(2008年9月3日朝刊掲載)

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