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非暴力精神 広めよう NY仏教連盟の中垣会長 広島で講演 「ノーモア」の訴えに尊さ

 浄土真宗本願寺派の僧侶で、米国のニューヨーク仏教連盟会長の中垣顕実さん(54)が広島市を訪れ11月23日、中区で講演した。5年前まで宗派の開教使として駐在した寺「ニューヨーク仏教会」にある被爆親鸞聖人像への思いや、広島の原爆投下時刻に現地で毎年営む「平和の集い」の意義を語った。日本へのかつての原爆投下を肯定する米国の世論を踏まえ、報復の連鎖のない、非暴力の世界実現に向けたヒロシマの役割の大きさを説いた。(桜井邦彦)

 集いは、中垣さんが同仏教会に赴任した1994年から、日本の8月6日午前8時15分(ニューヨーク時間5日午後7時15分)に開く。会場は、中垣さんが駐在した2010年までは仏教会、離れてからは場所を変えて教会などを巡回する。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教など多様な宗教の300~500人が参加し、祈りや音楽で死没者を追悼。人種や宗教の違いを超えて平和への思いを共有する。

 中垣さんは、仏教が教える平和への道として、法句経から「怨(うら)みに報いるに怨みを以(もっ)てしたならば ついに怨みの息むことがない」を引用し、「被害者が次に加害者になることは多い。やられたらやり返す、報復の連鎖を断ち切らないといけない」と主張した。

人間の命は平等

 「仏教では、自分が好きな人も嫌いな人も平等であるべきだ。命の尊厳を知り、人は武器を持つべきではない」とも強調した中垣さん。自らを「正義」と主張し、世の中を善悪に分けて悪い人はどうなってもいいとする考え方を否定した。報復でなく、同じ悲劇を他の人に体験させてはならないと訴えてきた被爆者の姿勢の尊さを説いた。

 親鸞聖人像は、爆心地から2キロ余りの三滝町(西区)で被爆。建立者の故広瀬精一さんが、国連本部のあるニューヨークに像を送ってノーモア・ヒロシマを訴えることを強く願い、像は55年にニューヨークへ渡った。中垣さんは「像は戦後も立ち続け、被爆者を励ます心の支えだったと聞いている。ヒロシマの願いがこもっている」と、当時の関係者たちの思いをくみ、集いを長年続ける原動力にしてきた。

 米国では、戦争を終わらせるため広島、長崎への原爆投下が必要だったと理解している人が今も多いという。一方、広島の立ち位置からメッセージを発信してほしいと願う人もおり、中垣さんたちは、被爆国から核兵器廃絶の声を広めていく必要性を肌で感じる。「これからも非暴力の精神をニューヨークで伝えていきたい」と誓う。

続ける意義説く

 講演会には牧師を含む約50人が参加し、質疑も重ねた。日本への原爆投下を肯定する考えが根強い米国で、核兵器廃絶への思いをどう伝えるかを問われ、中垣さんは「平和活動は挫折の連続。集いの参加者が増えているように、続けることで輪は広がる」と説いた。

 企画したのは、プロ、アマの写真家約20人でつくる「広島セブンリバーズ写真クラブ」。石河真理代表(広島市西区)が、平和の集いなどを通して交流のある中垣さんに依頼した。石河代表は「政治的な対立はあっても、宗教者は手を携えていることが分かり、安心感を感じられた」と話していた。

(2015年12月7日朝刊掲載)

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