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8時15分 時計針折れる 惨禍伝える原爆資料館展示 劣化防止 重い課題

 原爆資料館(広島市中区)の展示資料で、原爆投下時刻の午前8時15分で止まった懐中時計の短針が折れていたことが10日、分かった。同館は経年劣化が原因とみて、複製展示に切り替えた。あの日から70年が過ぎ、他の収蔵資料も傷みが進む。劣化対策が重い課題となっている。(田中美千子)

 時計は直径4センチ。1945年8月6日、爆心地の南西1・6キロで被爆後、同22日に亡くなった二川謙吾さん(当時59歳)が身に着けていた。文字盤を覆うガラスや鎖は外れている。同館は75年、時計を贈った息子一夫さん(故人)から寄贈を受け、近年は本館に入ってすぐの被爆再現人形そばに展示。99年発行の図録の表紙にも、時計の写真を採用した。

 同館によると、今夏、職員が清掃中に金属製の短針の先が折れているのに気付いたという。遺族の了解を得て、展示は96年度に作った複製とすることを決定。複製は6月からワシントンなど米国を巡回した原爆展に出品していたため、終了後の11月13日に換えた。実物は収蔵庫に納めた。

 同館は実物資料2万点を所蔵。うち420点を展示している。収蔵庫の温度や湿度を管理し、展示室の照明を抑えるなどしているが、被爆で傷んだ資料は経年劣化が加わり、金属のさびつき、写真や紙の色あせなどに歯止めがかからないのが実情という。

 96年度以降、同館は炭化した弁当箱や三輪車など計21点の複製を作成。併せて酸化防止のための脱塩処理や透明の樹脂による補強などの処理もしてきたが、2006年度を最後に中断している。

 志賀賢治館長は「原爆被害の実態を伝え続けるため、劣化防止は喫緊の課題」と話し、計画的な保存処理、資料に負担の少ない展示法などを検討するという。

(2015年12月11日朝刊掲載)

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