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社説・コラム

社説 「パリ協定」採択 歴史的合意どう生かす

 人類を救う転機になったと、後の世に語り継がれることを願う。無差別テロに揺れるフランスで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が「パリ協定」を採択した。これ以上の温暖化を食い止めるための新たな枠組みは、歴史的合意の名にふさわしい。

 産業革命前からの気温上昇を暮らしや生態系に深刻な影響をもたらす限界とされる「2度未満」に抑え、さらに1・5度にするべく努力する。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスもできる限り早期に減少へ向かわせ、今世紀後半には人間活動の排出と森林や海による吸収を差し引きゼロにする―。協定の長期目標は評価に値しよう。

 何より重要なのは条約に加わる196カ国・地域全てが賛同したことだ。排出ピークを過ぎた先進国と成長を阻害されたくない新興国・途上国が対立し、温暖化対策が足踏みしてきた状況を乗り越えたことになる。途上国側に不満を残すものの、温暖化対策と被害の救済を支える仕組みも一定に生まれた。

 国際社会として大きな一歩を踏み出したといえる。豪雨や干ばつなど温暖化影響への危機感が背景にあるのは間違いない。かつて足を引っ張った二大排出国の米国と中国が合意を後押ししたことが象徴的に思える。

 きれいごとばかりではない。米国はシェールガスによるエネルギー転換で、中国は経済の減速で温室効果ガスの削減を口にしやすくなった自国の事情もあるようだ。加えて国際社会へのアピール競争もあろう。特にオバマ米大統領の熱意の裏には、任期8年の終わりに歴史に名を残す狙いも透けて見えた。

 ただCOP21は温暖化対策の新枠組みを構築する最後のチャンスとされていた。鍵を握る国々の思惑はそれぞれ異なるにせよ、少なくとも合意に向けて一致できる国際状況だからこそ採択にこぎ着けたといえる。この流れを最大限生かしたい。

 むろん限界を指摘する声も強い。先進国に削減義務を課した1997年の京都議定書と比べて、明らかに拘束力が緩やかであるからだ。各国には削減目標の提出を5年ごとに義務付け、強化していく取り決めとはいえ具体的な対策となると各国任せで「達成」の義務はない。

 大切なのは、各国が厳しい現実を自覚することだ。既に産業革命以来の平均気温は1度上がり、現時点で各国の目標を積み上げても「2度未満」には遠く及ばないと考えられている。さらなる削減幅を積み上げないなら歯止めはかかるまい。協定採択を手放しに喜ぶ暇はない。

 その実感は世界5位の排出国日本にどこまであるだろう。

 2030年に13年比で排出量を26%削減するのが当面の目標である。「経済成長を犠牲にせずに達成する」と安倍晋三首相は述べたが、少々楽観的ではないか。そもそもパリ協定で言う「排出ゼロ」の地球像は成長や開発ありきではないはずだ。

 ならば日本の温暖化対策も見直しが必要だろう。現状では原発活用も含めて旧来の発想の域を出ない上に、石炭火力発電所の増設や輸出は化石燃料に頼らない海外の流れに逆行していよう。省エネ技術の開発と普及はもちろん、再生可能エネルギーの積極的拡大こそが「脱炭素社会」への切り札と考えたい。

(2015年12月15日朝刊掲載)

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