×

ニュース

栗原貞子さん未発表小説 「自分で働いて自分で喰べて行く すがすがしい」 2編 寄贈資料から発見

 「生ましめんかな」などで知られる詩人栗原貞子さん(1913~2005年)が50~60年代に書いた未発表の小説2編が残されていた。いずれも肉筆原稿で、自身を主人公のモデルとした未完作とみられる。社会的につくられた性別役割や、被爆20年後の広島の在り方を問い掛ける内容。関係者は「反核、反権力を貫いた栗原さんの思想の源であり、これまで語られてこなかった人間的な側面を伝える貴重な資料」としている。(森田裕美)

 2編とも推敲(すいこう)を重ねた跡がある。広島女学院大(広島市東区)の栗原貞子記念平和文庫に遺族から寄贈された膨大な資料の中に眠っていた。  原稿用紙約60枚の「涸(か)れた泉」は、50年代前半の作品とみられる。栗原さんは当時40歳前後で、既に詩歌集や文芸誌を発行するなどしていたが、家庭では妻であり母であった。

 物語の主人公は、同人誌への投稿などをしながら家事や育児を担う40歳の主婦三枝。「自分で働いて喰(く)ってみろ」と言う夫に疑問を抱いて家を出て、異郷で「家政婦」として働きながら家族や自己を見つめる。初めて自ら収入を得た三枝は「誰にも従属せず、自分で働いて自分で喰(た)べて行くと言うことがどんなにすがすがしいことか」と語る。家庭で女性が背負わされる役割の不条理と、それを生む社会構造への批判が随所に表れている。

 もう1編の「生きたかりけり」はB4判の用紙42ページ。被爆20年の広島を舞台に、主人公の女性と乳がんを患う友人を軸に日常がつづられる。友人は、栗原さんと親しかった歌人正田篠枝さんがモデルのようだ。2人のやりとりからは、形骸化する平和運動を憂う様子が伝わる。

 広島文学資料保全の会の土屋時子代表(67)は「栗原さんは個人的、家庭的なことはほとんど作品にしていない。小説からは、『行動する原爆詩人』『先駆的な平和思想家』として知られる以前、封建的な社会と闘おうとしていた女性・栗原貞子像が垣間見える」と話し、今後の研究に生かしていくという。

(2015年12月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ