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原爆碑86基 水彩画に 広島市安芸区の藤登さん、画集出版へ 学校などに贈る

 広島市安芸区に住む藤登弘郎さん(79)が、原爆死没者を慰霊する碑を水彩画に描いている。建立の記録を確認できた86基を1年間かけて作品に仕上げた。既に、被爆した建物と樹木を絵に刻んだ藤登さんにとって、碑の絵画集が完成すれば「原爆三部作」となる。(桜井邦彦)

 碑の場所は、本を調べたり、市教委などに尋ねたりして調べた。中区の平和記念公園内の原爆慰霊碑、原爆ドーム近くの動員学徒慰霊塔などよく知られたものだけでなく、小学校や高校、会社などの碑も題材にした。

 現地を訪ね、スケッチブックに鉛筆で下絵を描き、写真を撮る。自宅で色を付けて仕上げる。作画は終えており、来春には画集にして約400部印刷し、市内の小中学校や図書館に贈るという。

 藤登さんは八つ年上の兄が入市被爆した。あの日、自身は安浦町(現呉市)の小学校にいて、被害を直接見ていない。今回、碑を巡り描いていく中で平和への思いがあらためてこみ上げてきた。

 「学徒動員で亡くなった方は、今生きていれば80代。孫に囲まれ楽しく過ごしていただろうに」と想像し、「胸が締め付けられるような感覚で筆を走らせた」と振り返る。

 銀行退職後の60歳ごろから水彩画を始めた藤登さん。被爆建物90カ所を2006年から3年、被爆樹木80本を13年から1年かけて描いた。姿を消しつつある被爆の痕跡を残そうとの決意だった。

 国政や社会の変化も気に掛かる。藤登さんは「戦争や争いのない世界を子どもたちに残すため、作品が役立てばうれしい」と願う。

(2015年12月19日朝刊掲載)

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