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追跡2015 中国地方の現場から 島根原発 廃炉の道筋 定まらず

 年の瀬が迫った18日。島根県と松江市は中国電力と島根原発(松江市)の安全協定を改正する覚書を交わした。1号機の廃炉作業について、具体的な工程を示す廃止措置計画の申請時だけでなく、作業の段階ごとに県と市の事前了解を必要とする内容を加えた。地元自治体として30年にも及ぶ廃炉作業をチェックする。

 中電が運転開始から41年の島根1号機の廃炉を決めたのは、ことし3月。東京電力福島第1原発の事故をきっかけに、国が原発の運転を原則40年と定めたためだ。運転の延長には、安全対策に巨額の費用が掛かる。中電は採算が合わないと判断し、同社初の廃炉を決定。他の電力会社も相次ぎ老朽原発を廃炉にした。

 課題は山積する。松江市の松浦正敬市長は中電の苅田知英社長に「使用済み核燃料などを原発敷地内で長期保管することは市民が納得しない」と要請。だが、中電は廃炉作業で発生する「核のごみ」の処分方法をまだ示せていない。

虚偽記録で反発

 廃炉への道筋を初っぱなから遅らせる要因になったのが、島根原発の低レベル放射性廃棄物の処理をめぐる虚偽記録問題だ。30代の担当社員が必要な機器を点検していないのに、したように虚偽の監査書類を作っていたことが6月に発覚。中電は地元の反発を招き、1号機の廃炉作業に入るための廃止措置計画をいまだに申請できないでいる。

 島根原発では2010年にも点検不備問題が起きていた。「申し訳ない」。苅田社長は県庁を訪ね、溝口善兵衛知事に頭を下げた。中電は9月、社員に安全意識の浸透が不十分だったとする報告書をまとめ、苅田社長たち役員5人が月額報酬を自主返納した。

 反原発の市民団体「さよなら島根原発ネットワーク」事務局の芦原康江さん(62)は「中電のずさんな安全管理は明らか」と批判。松浦市長も「中電に原発を任せられるのかという話にもなる」と憤った。1号機の廃炉にとどまらず、原子力規制委員会が審査している2号機の再稼働の行方にも影響しそうだ。

九州では再稼働

 一方、他地域では原発の再稼働が進んだ。九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が初めて新規制基準に適合しているとされ、8月に再稼働。瀬戸内海の対岸にある四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)も地元の県と町の首長が10月、再稼働に同意し、来春以降に動きだす見通しだ。

 地元同意の在り方もクローズアップされた。四国電は、伊方町以外に周辺自治体の同意を得なかった。島根原発をめぐり、中電も鳥取県などから立地自治体並みの権限を求められているが、苅田社長は「協議を継続する」と述べるにとどまる。福島の事故から来年3月で5年。原発に向けられた多くの国民の視線は厳しいままだ。(河野揚、川井直哉、秋吉正哉)

島根原発
 1号機は国産第1号の原発として1974年3月に稼働。出力は46万キロワットで、ことし4月30日に手続き上、廃炉になった。出力82万キロワットの2号機は再稼働に向け、原子力規制委員会の適合性審査を受けている。出力137万3千キロワットの3号機は建設中で、中電は適合性審査への申請を準備している。

(2015年12月21日朝刊掲載)

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