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連載・特集

追跡2015 中国地方の現場から 文化人の死 戦争・原爆 発信続ける

 焦土から生まれた新しい文学の息吹が伝わる。被爆体験を基に核兵器の脅威と命の尊厳を刻み、1月に89歳で亡くなった岩国市出身の詩人御庄博実さんの遺品を並べた安田女子大図書館(広島市安佐南区)の一角。峠三吉が病没する1年半前の1951年9月に「風立ちぬ いざ生きめやも」と書き込んで贈った「原爆詩集」初版など、御庄さんが同大に寄贈した資料を紹介している。

為政者への怒り

 「交流のあった文学関係者が来られます」と同大学長室の安田馨課長。段ボール約100箱もの膨大な資料を整理し、戦後70年の節目に一部の公開にこぎ着けた。ことしは御庄さんをはじめ、戦争や原爆の体験が創作の原点になった表現者が相次いで他界した。

 原爆の日を目前にした8月3日。旧日本海軍にまつわる著作の多い文化勲章受章者の作家阿川弘之さん(広島市中区出身)が94歳で亡くなった。4月に中国放送が「戦艦大和と呉」と題したラジオ番組で約10年前に収録した肉声を放送したばかりだった。

 放送で阿川さんは、戦後復興の礎になった呉海軍工廠(こうしょう)の技術を評価しつつ、「ただ、それに酔っちゃいけない」とくぎを刺した。当時、聞き手を務めた中国放送の仙田信吾常務は「戦争を止められなかった為政者への怒りと、友や恩師の命を奪った原爆への憤りをかみしめながら生み出した言葉だった」と振り返る。

 2005年の開館時から名誉館長を務めた大和ミュージアム(呉市)も4月、阿川さんの著作をテーマに企画展を開催。戦後70年を機に呉市で8月下旬にあった開館10周年シンポジウムでは、参加者全員が黙とうした。

原発などテーマ

 原爆や公害、原発などのテーマで戦後のひずみを記録した報道写真家福島菊次郎さん(下松市出身)も9月、94歳で世を去った。東日本大震災の被災地にも通った福島さんの晩年を記録したドキュメンタリー映画「ニッポンの嘘(うそ) 報道写真家 福島菊次郎90歳」(12年)は没後、広島市内の映画館で再上映された。

 広島、福山両市で育った工業デザイナー栄久庵(えくあん)憲司さんは2月、85歳で亡くなった。その2カ月余り前、広島県立美術館で開催中だった自身の作品展を訪れていた栄久庵さん。被爆直後に目撃した広島の焼け野原を念頭に「『無』になった世界を取り戻したい」と出発点を語っていた。

 師走を前にした11月30日、妖怪漫画の巨匠水木しげるさん(境港市出身)の訃報が飛び込んだ。93歳。左腕を失った南方戦線の経験を作品に反映させた。

 自身が暮らした東京都調布市であった「水木しげるの戦争と新聞報道展」の会場を8月に訪問。「戦争は即、死を考えなきゃいかんですよ」と語ったという。命の炎が燃え尽きる直前まで、メッセージを発し続けた。(石川昌義)

(2015年12月23日朝刊掲載)

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