原爆慰霊碑に塗料 広島 未明 50代男?逃走
12年1月5日
4日午前0時50分ごろ、広島市中区の平和記念公園にある原爆慰霊碑の碑文に、金色の塗料が吹き付けられているのを警備員男性(65)が発見し、広島中央署に通報した。市は被害届を提出。同署が器物損壊の疑いで捜査している。
広島中央署などの調べでは、碑文を刻む石板は高さ約80センチ、幅約125センチ、奥行き約13センチ。「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と3行で横書きされた文のうち、「過ちは」以下の2行をなぞるように吹き付けられていたという。
同署によると、何者かが慰霊碑を囲む区画に侵入したため警報装置が作動。警備員が駆け付けた。3日午後11時ごろ、警備員が巡回した時には異常はなかったという。同署は、市の防犯カメラの映像なども調べ、犯人の特定を急ぐ。
慰霊碑を管理する広島平和文化センターなどによると、防犯カメラには、黒っぽい上着に白っぽいズボンをはいた男が立ち去る様子が写っていた。また、50歳代くらいの白髪の男が逃げていくのを目撃した人もいるという。
碑は、広島平和文化センターの職員2人が午前5時ごろから、シンナーなどで塗料を拭き取る応急措置をした。本格的な修復作業は5日以降になる見込み。
慰霊碑の損壊事件は1965年以降、少なくとも5回目。最近では、2002年3月、碑文に赤茶色の塗料がかけられ、05年7月には政治結社構成員が碑文の一部を損壊する事件があった。
許されぬ行為 松井一実広島市長の話
いかなる意図があろうとも、このような行為は許されない。広島の心や世界の平和を求める人々の心を思うとき、原爆死没者のみ霊を冒〓(ぼうとく)するものと言わざるを得ず、広島市長として強い憤りを覚える。(碑文の内容に)合点がいかない人もいるだろうが、だからといって許すことはできない。
原爆慰霊碑
広島市が1952年8月6日に建立した。原爆死没者名簿を納めた石棺の正面に「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と刻まれている。碑文は故雑賀忠義広島大教授が考案し、故浜井信三広島市長が決めた。碑文の主語をめぐっては議論があったが、市は「すべての人びと」と解説している。
警備の甘さを問う声も
4日未明、広島市中区の平和記念公園の原爆慰霊碑に塗料が吹き付けられた事件。心ない行為に、平和な世の実現を年頭にも誓った被爆者や市民に憤りが広がった。一方で、同様の事件は繰り返し起きており、警備の難しさも浮き彫りになった。
広島県被団協の坪井直理事長(86)は「怒りではらわたが煮えくりかえる思いだ。証言活動をするわれわれも奮い立たなければならない」と声を震わせた。
もう一つの広島県被団協の金子一士理事長(86)も「絶対に許せない。原爆は二度と使われてはならないという世論をもっと盛り上げる必要を痛感している」。被爆直後に水を求めながら亡くなった人たちを思い、原爆慰霊碑などに「献水」する活動を続ける被爆者の宇根利枝さん(93)=南区=は「寝たきりだが、原爆慰霊碑まで今すぐ飛んで行きたいほど悔しい」とショックを受けていた。
広島県の湯崎英彦知事は中国新聞の取材に「怒り以外の感情が浮かばない。被爆して亡くなった方の尊厳を傷つける行為だ」と厳しく非難した。
悪質な行為が後を絶たない現実。原爆慰霊碑を囲む平和の池の清掃奉仕に毎年参加する中区の西山和義さん(63)は「またかと思った。市の警備体制に甘さがあるのではないか」と指摘する。
市は、防犯体制を強化してきた。2002年3月、碑文にペンキをかけられた事件が契機となった。原爆慰霊碑の管理を所管する市平和推進課によると、現在、慰霊碑の四方にセンサーを設置。何者かが区画内に立ち入ると、警報が現場と守衛室で鳴る仕組みだ。
公園内の原爆資料館の本館と東館には、慰霊碑に向けた防犯カメラ各1台があり、夜間は警備員2人が交代で映像を監視。さらに、2時間ごとに公園内を巡回しているという。
今回は警報が作動し、警備員が現場に駆け付けたが、ビデオ映像に写った男は立ち去った後。30秒ほど慰霊碑内に侵入した形跡があるという。同課は「防犯カメラの映像をチェックしており、当面は現状の警備体制を続ける。フェンスを設けるなどしなければ完全には防げない」とし、難しさを打ち明ける。
平和記念公園で起きた主な器物損壊
1965年 2月 原爆慰霊碑の碑文に赤い泥絵の具
76・ 8 原爆慰霊碑の碑文下に「トルーマン大統領」と彫った石板が張り付けらる
84・ 3 動員学徒慰霊塔の千羽鶴に無職の男が放火。約10万羽が燃える
97・ 7 「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」の碑文の一部が削られる
99・10 「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」の台座にペンキがかけられる
2001・11 レストハウスや元安橋欄干などに落書き
12 原爆ドーム外壁に落書き
02・ 2 「原爆の子の像」前の折り鶴約5万羽が焼失
3 原爆慰霊碑の碑文に赤茶色の塗料がかけられる
03・ 8 大学生が「原爆の子の像」の折り鶴に放火。約14万羽が焼ける
05・ 7 政治結社構成員が原爆慰霊碑の碑文を削る
06・ 1 平和の灯などに塗料で落書き
10・ 3 被爆桜の苗木が盗まれる
(2012年1月5日朝刊掲載)
広島中央署などの調べでは、碑文を刻む石板は高さ約80センチ、幅約125センチ、奥行き約13センチ。「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と3行で横書きされた文のうち、「過ちは」以下の2行をなぞるように吹き付けられていたという。
同署によると、何者かが慰霊碑を囲む区画に侵入したため警報装置が作動。警備員が駆け付けた。3日午後11時ごろ、警備員が巡回した時には異常はなかったという。同署は、市の防犯カメラの映像なども調べ、犯人の特定を急ぐ。
慰霊碑を管理する広島平和文化センターなどによると、防犯カメラには、黒っぽい上着に白っぽいズボンをはいた男が立ち去る様子が写っていた。また、50歳代くらいの白髪の男が逃げていくのを目撃した人もいるという。
碑は、広島平和文化センターの職員2人が午前5時ごろから、シンナーなどで塗料を拭き取る応急措置をした。本格的な修復作業は5日以降になる見込み。
慰霊碑の損壊事件は1965年以降、少なくとも5回目。最近では、2002年3月、碑文に赤茶色の塗料がかけられ、05年7月には政治結社構成員が碑文の一部を損壊する事件があった。
許されぬ行為 松井一実広島市長の話
いかなる意図があろうとも、このような行為は許されない。広島の心や世界の平和を求める人々の心を思うとき、原爆死没者のみ霊を冒〓(ぼうとく)するものと言わざるを得ず、広島市長として強い憤りを覚える。(碑文の内容に)合点がいかない人もいるだろうが、だからといって許すことはできない。
原爆慰霊碑
広島市が1952年8月6日に建立した。原爆死没者名簿を納めた石棺の正面に「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と刻まれている。碑文は故雑賀忠義広島大教授が考案し、故浜井信三広島市長が決めた。碑文の主語をめぐっては議論があったが、市は「すべての人びと」と解説している。
慰霊碑に塗料 祈り汚す暴挙再び 被爆者ら怒り・衝撃
警備の甘さを問う声も
4日未明、広島市中区の平和記念公園の原爆慰霊碑に塗料が吹き付けられた事件。心ない行為に、平和な世の実現を年頭にも誓った被爆者や市民に憤りが広がった。一方で、同様の事件は繰り返し起きており、警備の難しさも浮き彫りになった。
広島県被団協の坪井直理事長(86)は「怒りではらわたが煮えくりかえる思いだ。証言活動をするわれわれも奮い立たなければならない」と声を震わせた。
もう一つの広島県被団協の金子一士理事長(86)も「絶対に許せない。原爆は二度と使われてはならないという世論をもっと盛り上げる必要を痛感している」。被爆直後に水を求めながら亡くなった人たちを思い、原爆慰霊碑などに「献水」する活動を続ける被爆者の宇根利枝さん(93)=南区=は「寝たきりだが、原爆慰霊碑まで今すぐ飛んで行きたいほど悔しい」とショックを受けていた。
広島県の湯崎英彦知事は中国新聞の取材に「怒り以外の感情が浮かばない。被爆して亡くなった方の尊厳を傷つける行為だ」と厳しく非難した。
悪質な行為が後を絶たない現実。原爆慰霊碑を囲む平和の池の清掃奉仕に毎年参加する中区の西山和義さん(63)は「またかと思った。市の警備体制に甘さがあるのではないか」と指摘する。
市は、防犯体制を強化してきた。2002年3月、碑文にペンキをかけられた事件が契機となった。原爆慰霊碑の管理を所管する市平和推進課によると、現在、慰霊碑の四方にセンサーを設置。何者かが区画内に立ち入ると、警報が現場と守衛室で鳴る仕組みだ。
公園内の原爆資料館の本館と東館には、慰霊碑に向けた防犯カメラ各1台があり、夜間は警備員2人が交代で映像を監視。さらに、2時間ごとに公園内を巡回しているという。
今回は警報が作動し、警備員が現場に駆け付けたが、ビデオ映像に写った男は立ち去った後。30秒ほど慰霊碑内に侵入した形跡があるという。同課は「防犯カメラの映像をチェックしており、当面は現状の警備体制を続ける。フェンスを設けるなどしなければ完全には防げない」とし、難しさを打ち明ける。
平和記念公園で起きた主な器物損壊
1965年 2月 原爆慰霊碑の碑文に赤い泥絵の具
76・ 8 原爆慰霊碑の碑文下に「トルーマン大統領」と彫った石板が張り付けらる
84・ 3 動員学徒慰霊塔の千羽鶴に無職の男が放火。約10万羽が燃える
97・ 7 「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」の碑文の一部が削られる
99・10 「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」の台座にペンキがかけられる
2001・11 レストハウスや元安橋欄干などに落書き
12 原爆ドーム外壁に落書き
02・ 2 「原爆の子の像」前の折り鶴約5万羽が焼失
3 原爆慰霊碑の碑文に赤茶色の塗料がかけられる
03・ 8 大学生が「原爆の子の像」の折り鶴に放火。約14万羽が焼ける
05・ 7 政治結社構成員が原爆慰霊碑の碑文を削る
06・ 1 平和の灯などに塗料で落書き
10・ 3 被爆桜の苗木が盗まれる
(2012年1月5日朝刊掲載)