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連載・特集

中国地方2015回顧 美術 戦争の悲劇に向き合う 

丹念な調査 継承訴え

 戦後・被爆70年の節目を意識した展覧会が相次いだ。芸術は戦争にどう向き合い、現代社会にどんな役割を果たし得るのか。さまざまな形で問われ、示された1年だった。

 広島県立美術館(広島市中区)は長崎県美術館と共同で「戦争と平和展」を開いた。両館の所蔵品を軸に、19世紀初めのナポレオン戦争までさかのぼり、戦争や被爆をめぐる表現をたどった。広島市現代美術館(南区)は「ヒロシマを見つめる三部作」として三つの企画を展開。市民が描いた原爆の絵を美術館の視点で取り上げるなど、切り口に工夫を凝らした。所蔵する丸木位里・俊による「原爆―ひろしまの図」の公開修復も行った。

 笠岡市立竹喬美術館は、日本画家小野竹喬と、後継と期待されながら26歳で戦死した長男春男に光を当てた。丹念な調査で戦争の悲劇を浮き上がらせた。泉美術館(広島市西区)は、ヒロシマを創造の原点にした故入野忠芳と香川龍介、田谷行平の3人展や、ことし他界した明田弘司らが被爆地の復興を捉えた写真展を開いた。

 反核平和の画業に生き、昨年3月に亡くなった四国五郎の追悼・回顧展とシベリア抑留展が広島市であった。市民有志による心のこもった展示が多くの来場者を集めた。はつかいち美術ギャラリー(廿日市市)は毎年開く平和美術展で、広島市の日本画家宮川啓五を紹介。被爆体験を基にした作品を中心に据え、60年を超える画業をたどった。

 現代アートによる問い掛けも続いた。アートギャラリーミヤウチ(同)は、国内外の著名アーティストが被爆70年の広島から思いを伝える「TODAY IS THE DAY:未来への提案」展を企画。ことし22回目を迎えた広島市での「ヒロシマ・アート・ドキュメント」と並び、戦争や政治について深い思考を促す場を提供した。

 個展では、洋画家大前博士が半世紀にわたり「封印」してきた被爆体験を描いた新作を郷里の広島市で披露し、話題となった。北米や南米に住む被爆者への取材を基に、布や糸で制作したアートを広島市で展示した竹田信平は、メキシコを拠点とする若手。戦争や被爆の体験をどう継承するか、鮮烈に問い掛けた。

 入場者数で目立ったのは、広島県立美術館の「藤子・F・不二雄展」。11万人を超え、不動の人気を見せつけた。同館の「歌川国芳展」も4万人余りの反響。ふくやま美術館(福山市)の「ピカソ展」も3万人を超えた。

 島根県立石見美術館(益田市)は、同館を含む県芸術文化センター・グラントワが開館10周年を迎え、地元出身のデザイナー森英恵と同センター長でもある彫刻家澄川喜一の大規模な回顧展を開いた。

 ひろしま美術館(広島市中区)の「ユトリロとヴァラドン」展は、西洋絵画研究の蓄積を感じさせる充実の内容。中国地方の仏像・仏画を集めた石見美術館の「祈りの仏像」展、尾道市出身の江戸後期の女性画家平田玉蘊(ぎょくうん)を取り上げた広島県立歴史博物館(福山市)の企画も、調査研究の成果が光った。

 西洋美術振興財団賞の学術賞に、ひろしま美術館の古谷可由(よしゆき)学芸部長と島根県立美術館(松江市)の蔦谷典子学芸課長が選ばれた。広島市現代美術館の松岡剛学芸員は、優れた美術史研究に贈られる倫雅美術奨励賞を受けた。

 戦後の工業デザイン界の第一人者で広島、福山市に育った栄久庵憲司が85歳で、浜田市出身の日本画家石本正が95歳で亡くなった。=敬称略(森田裕美、道面雅量)

(2015年12月25日朝刊掲載)

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