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連載・特集

中国地方2015回顧 平和への願い共鳴 地域発の上映作奮闘

 被爆70年のことし、ヒロシマの悲劇を見つめ直し、平和を発信する取り組みが相次いだ。ピアニストのマルタ・アルゲリッチら世界的なアーティストが広島を訪れ、舞台や演奏を通じてメッセージを刻んだ。(余村泰樹)

音楽

 広島交響楽団は8月、アルゲリッチと平和への思いを共鳴させた。音楽監督・常任指揮者の秋山和慶の指揮でベートーベンのピアノ協奏曲第1番を奏で、広島の会場と初公演のサントリーホールをそれぞれ埋めた観客から喝采を浴びた。アルゲリッチには広響の平和音楽大使の称号を贈った。

 また、ヒロシマ関連の曲の演奏に力を注いだ。3月に糀場(こうじば)富美子(広島市南区出身)の「摂氏4000度からの未来」を初演し、11月にはフィンランドの作曲家エルッキ・アールトネンの交響曲第2番「HIROSHIMA」を60年ぶりに被爆地に響かせた。12月には、2017年4月から音楽監督が秋山から下野竜也に代わることが発表された。

 著名な音楽家も広島を次々と訪れた。ロシアの指揮者ウラディーミル・フェドセーエフは「チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ」を率いてチャリティーコンサートを開催。「レッド・ツェッペリン」のジミー・ペイジは44年ぶりに平和記念公園(中区)を訪問し、慰霊碑に献花した。

 大竹市在住の歌手二階堂和美は、被爆70年に思いをはせた「伝える花」をリリース。東区出身の奥田民生はギター1本の弾き語りでマツダスタジアム(南区)を沸かせた。

映画・テレビ

 中国地方発の映画の奮闘が目立った。周南市の周南「絆」映画祭が生んだ「百円の恋」は米アカデミー賞外国語映画賞部門の日本代表に選出。閉館した福山市の映画館「シネフク大黒座」を舞台にした時川英之監督の「シネマの天使」、横山雄二監督の「浮気なストリッパー」など、広島在住の監督が地元の魅力をスクリーンに表現した。

 中区出身の土井裕泰監督の「ビリギャル」は世代を超えてヒット。南区出身の杉野希妃は俳優やプロデューサーとして多彩な才能を見せた。三次市出身の小路紘史監督の初長編作「ケンとカズ」は東京国際映画祭で受賞し、新しい才能の今後に期待が高まる。

 フランスの映画団体と連携を始めた広島国際映画祭(11月)は内容が充実し、飛躍の年に。会場ではフランスからの参加者とともに、パリ同時多発テロの犠牲者の冥福を祈った。

 広島県内の映画館やテレビ局は被爆70年を機に、それぞれ平和を訴える映画や原爆番組を連携して上映。被爆地で映像文化を担う心意気を感じさせた。

舞台

 劇団四季はミュージカル「美女と野獣」を7年ぶりに広島で公演。3カ月弱で80回上演し、約11万人を呼び込んだ。岡山市北区出身の岸田国士戯曲賞作家ノゾエ征爾はアステールプラザのプロデュース公演で、広島のキャストのために「飛ぶひと」を書き下ろし、広島と東京で発表した。

 広島市安芸区出身の現代音楽作曲家、細川俊夫は自作オペラ「リアの物語」を能舞台で披露。中区出身の俳優平幹二朗は代表作「王女メディア」を中国地方各地で演じ、衰えぬ情熱を示した。ひろしまオペラルネッサンスはモーツァルトの「フィガロの結婚」で、人間愛を描き出した。

 錦織一清の演出による劇作家つかこうへいの代表作「広島に原爆を落とす日」や劇団往来の音楽劇「チンチン電車と女学生」など、演劇人たちも正面から原爆と向き合った。

(2015年12月26日朝刊掲載)

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