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中国地方2015回顧 <下> 文芸 原爆文学保存へ新展開 地元作家も動き活発

 被爆直後に芽生えた原爆文学がことし、保存活用への新たな転機を迎えた。  広島文学資料保全の会と広島市は、栗原貞子たち被爆作家3人の直筆資料3点について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産登録を目指して国内公募に申請した。国内2枠の候補入りはかなわなかったが、同会は長年、市に文学館建設を働き掛けており、市が共同申請したことは大きな前進といえる。

 両者は16日、2017年に予定される次回の国内公募に向けた協議を開始。新たに作家大田洋子や歌人正田篠枝の資料の追加も視野に、調査を進めるという。

 新資料の発見もあった。ふくやま文学館(福山市)は、正田篠枝が最晩年に知人に宛てた書簡を、被爆70年の特別企画展で初公開。栗原貞子が書いた未発表の小説2編が、遺族の寄贈資料の中から見つかった。

 原民喜はことし生誕110年。広島市立中央図書館(中区)が企画展を開いたほか、文芸誌での特集や全詩集刊行など民喜文学を読み直す動きにつながった。

 日本マンガ学会は初めて広島で大会を開き、漫画家や研究者が戦争漫画の意義を討議した。登壇した西区出身の漫画家こうの史代(47)が、第2次世界大戦末期の広島、呉を舞台にした漫画「この世界の片隅に」のアニメ映画化も決定。片渕須直(55)が監督を務め、来年秋の公開を目指す。

 戦後の国内児童文学のベストセラーも「節目」となった。西区出身の児童文学作家那須正幹(73)の「ズッコケ三人組」シリーズ。12月に刊行した「ズッコケ熟年三人組」(ポプラ社)で37年間続いたシリーズが完結した。最後に選んだ題材は昨年8月の広島土砂災害。各地で自然災害が相次ぐ中、復興に向けた希望の物語を紡いだ。

 お笑い芸人又吉直樹の「火花」の芥川賞受賞に沸いた出版界。広島では、広島東洋カープの黒田博樹投手の8年ぶり復帰や近年のカープ女子ブームが、書店を赤く染めた。黒田の「決めて断つ」(ベストセラーズ)をはじめ、カープ関連本の出版が相次いだ。

 地域から文芸を盛り上げようとの動きも活発だった。児童文学作家巣山ひろみ(52)=佐伯区=たち5人が、新たな児童文芸サークルを発足。自宅で出版社を始めた小島明子(41)=中区=は、最初となる絵本を刊行。中国短編文学賞で2度の大賞に輝いた森岡隆司(54)=南区=は、中国新聞SELECT(セレクト)で小説連載に挑んだ。

 文学賞では、広島市出身の児童文学作家朽木祥(58)が童話「あひるの手紙」(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞を受賞。安佐南区出身の映画監督西川美和(41)は「永い言い訳」(文芸春秋)で直木賞候補になった。

 広島本大賞は5回目。小説部門に周防柳(51)の「八月の青い蝶」(集英社)、その他部門には中国放送アナウンサー坂上俊次(40)の「優勝請負人」(本分社)が選ばれた。

 郷土ゆかりの作家の訃報も相次いだ。戦争をテーマに多くの作品を残した文化勲章受章者の阿川弘之は94歳、独創的な妖怪漫画を描いた水木しげるは93歳で亡くなった。詩人御庄博実が89歳、直木賞作家の船戸与一が71歳で世を去った。=敬称略(石井雄一)

(2015年12月26日朝刊掲載)

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