×

社説・コラム

社説 防衛費5兆円 「聖域化」は許されない

 日本の防衛費が初めて5兆円を超える。政府が2016年度当初予算案を先週決定した。

 本年度の当初予算に比べ1・5%増の5兆541億円で、第2次安倍政権では4年連続の増加となる。厳しい財政状況で国民の税負担を増やし、暮らしに身近な予算を削る中、防衛費は「聖域」扱いのようだ。

 政府は中国の海洋進出などアジア・太平洋地域の安全保障環境の変化を理由に挙げる。際立つのは離島防衛の強化策だ。沖縄県・尖閣諸島が念頭にある。

 最新鋭のステルス戦闘機F356機、垂直離着陸輸送機オスプレイ4機を購入し、無人偵察機グローバルホークの導入費も計上した。戦車並みの火力を持つ機動戦闘車や水陸両用車も計50両近くそろえ、宮古島などに自衛隊の南西警備部隊を置く。

 国民の命や領土を守るには確かに一定の防衛力が必要だろう。警戒監視も欠かせない。ただ際限のない予算拡充は周辺国と軍拡競争を招く恐れがある。国際社会が日本の平和主義を疑う事態は避けねばならない。

 ましてや日中両国は11月の首脳会談などで関係改善の兆しを見せているだけに、まずは外交努力を尽くすべきである。

 新たな装備品のリストからは、今秋の安全保障関連法の成立によって新しい次元に入る日米同盟の姿も見えてくる。

 新型の早期警戒機E2Dは米艦に向けたミサイルへの対処など、日本が集団的自衛権を行使する際の使用が考えられる。新型の空中給油機KC46Aにいたっては、専守防衛を掲げる自衛隊にどこまで必要だろう。まさに地球規模で米軍を後方支援するための配備だと映る。

 安保法の国会審議での安倍晋三首相の答弁を振り返ろう。防衛費の総額縮減を掲げた中期防衛力総合計画を引き合いに、「安保法制によって新装備や大増強が必要になることはない」とした。法律制定を急ぐための方便だったのだろうか。

 巨額の調達は10月発足した防衛装備庁が担う。旧防衛施設庁は汚職で解体に追い込まれた。二重のチェック体制にしたというが、防衛省の外局では実効性は疑わしい。だからこそ国会審議が一層重要になる。これは沖縄関連の予算にも言えよう。

 在日米軍駐留経費を日本側が負担する、いわゆる「思いやり予算」は21億円増の1920億円と7年ぶりの高水準となる。 日本側は安保法での対米支援強化や厳しい財政状況から大幅な削減を求めた。しかし米側はアジア・太平洋地域重視のリバランス(再均衡)政策でイージス艦を日本に追加配備することなどを挙げて、突っぱねた。

 日米地位協定の条項をあらためて米側に読み聞かせたい。日本側の負担は施設・区域の提供に限り、米軍の光熱水費などの駐留費を負う義務はない。リバランス政策は米国の世界戦略であり、対等の同盟国が恩着せがましく言われる筋合いはない。

 安倍首相は日米安保の片務性解消を訴えてきた。ならば思いやり予算も見直すべきだ。普天間の辺野古移設を含む米軍再編事業費や選挙の票目当ての直接補助金にしても、沖縄の民意をくみ取るのが先だろう。

 防衛費の聖域化に違和感を禁じ得ない。首相が好んで口にする「強い日本」とは防衛力に過度に頼ることではあるまい。

(2015年12月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ