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社説・コラム

国家超え 宗教者が対話 被爆70年 各国から広島訪問 広島平和研・水本副所長に聞く

共存へ導き平和実現を

 被爆70年の2015年は、各国の宗教者が広島へ集って法要を営み、平和への思いを発信した。広島市立大広島平和研究所(安佐南区)の水本和実副所長(58)=国際関係・核軍縮=に、被爆地での各宗教者の発言の意義や、平和実現に向けた宗教の役割を聞いた。(桜井邦彦)

  ―平和を考える上で注目した発言がありますか。
 宗教間の対話が強調された。日中韓仏教友好交流会議での発言にある3国の「黄金の絆」は、国家の枠を超えて宗教者が誠実に向き合おうとする姿勢を表し、意義深い。

 世界ではイスラム教をテロ集団と混同して排斥する動きがある。教義を正しく理解すれば、排他的な宗教などはない。宗教が自らの価値観を暴力的に押しつけるのは危ない。宗教の対立が紛争の要因にもなっており、宗教界の役割が問われている。すべての宗教者には対話の姿勢を大切にし、共存へと人々を導く役割がある。

  ―現代の国際関係を宗教者の主張と照らし、どう見ますか。
 物欲や利己主義を平和の敵と訴えた宗教者がいた。現代社会で、物欲や利己主義を堂々と主張しているのが国家だ。工業文明で新しいものを作り、競争を勝ち抜いて経済力を伸ばすことがよいとされ、資源を得るために武力も行使する。この姿勢は個人の物欲に通じる。

 個人は戒められても、国家レベルでは許されている。強者が発言力を持ち、自らが正しいと価値観を押しつける。個人では慈悲、互いを尊重する心が尊ばれるのに、国家間では真逆のことがまかり通っている。国家が利益を無制限に求めれば衝突が起きる。国家の指導者も宗教者の指摘に耳を傾けるべきだ。

  ―宗教的視点から、紛争の解決法や平和への道筋は見えますか。
 冷戦後の国際紛争は民族や宗教、文化、言語の対立が最大の要因。どう克服できるか、決め手がない。それに対し、宗教者はシンプルに、人間は本来善であると説いている。心へのアプローチは大きなヒントだ。人間にとって、科学文明がいかに発達しても、心を切り離しては生きられない。政治指導者も、何らかの宗教的価値観を持ち、科学を超えて何かにすがろうという気持ちのある人が多い。

 軍縮でも、国家間の信頼がないと武器は減らせない。各国の指導者の心に訴えると、軍縮につながる可能性はある。異なる価値観を認め合う宗教の力を借りれば、解決法が見いだせるかもしれない。宗教者が「黄金の絆」で連帯し、心の平和を目指す動きをもっと広げてほしい。その意味でも、宗教者が広島に集まって発信した意義は深い。

<広島を訪れた主な宗教者と発言>

浄土真宗本願寺派 大谷光淳門主
 戦後70年という歳月を戦争の悲しみや痛みを忘れるためのものにしてはならない。(7月3日の平和を願う法要)

アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター(オーストリア)
 ファイサル・ムアンマル事務総長 憎しみや恐れなどから対立や紛争が広がり、核兵器保有競争の悪循環が起きている。対話でこそ持続可能な平和を創ることができる。(8月6日のシンポジウム「二度と戦争を起こさない―核兵器廃絶をめざして」)

日中韓国際仏教交流協議会 武覚超理事長
 3カ国の仏教者の「黄金の絆」を原点とし、われわれ仏教徒が目指す心の平和に向けて、諸宗教間の対話を促進していこう。(9月15日の日中韓仏教友好交流会議日本大会)

中国佛教協会 明生・副会長
 物欲の膨張は世界平和の見えない弊害。資源をできる限り占有し、利用する。目的を達成できなければ非常な手段に走る。横暴な振る舞いを支えているのは人類の膨張した欲望や、極端な利己主義だ。(同)

大韓仏教曹渓宗 法常師
 仏教では、人間の心は本来清浄。心が汚染され、利己主義と自己中心的な見解のみが正しいという、むなしい観念にとらわれている。清浄な心で命の尊厳性を自覚し、心の平和をなせば世界は平和になる。(同)

(2015年12月28日朝刊掲載)

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