×

ニュース

祖父の被爆手記 世界へ 「核」根絶の願い継ぐ 広島市東区・桑本さん 10年かけ英訳

 広島市東区の会社役員桑本仁子さん(57)が、原爆で娘を亡くした祖父の手記の英訳版「Black Butterfly(ブラック・バタフライ)」を発刊し、市内の図書館や海外に贈っている。「原爆の惨状は、海外では十分に知られていない。祖父のためにも伝えたい」と10年かけて翻訳。日本語の原作も改訂して発行した。

 原作の手記「黒い蝶(ちょう)」は1960年の発刊。桑本さんの祖父で81年に亡くなった松岡鶴次さんが、原爆投下7カ月前の45年1月から投下の翌月までに書いた日記を、一冊にまとめた。

 旧美和村(現北広島町)に疎開していた松岡さんは、学徒動員で広島市にいた長女=当時(15)=を原爆で亡くした。自身も投下から3日後には市中心部に入った。手記には、焼けただれた無数の遺体が横たわる市街地、「体が焼ける」と苦しむ長女の様子などを克明に記し、「あらん限りの介抱も手当てもそのかいもなくついに蕾(つぼみ)のまま儚(はかな)くも散り果てる。嗚呼(ああ)原子爆弾の生贄(いけにえ)」などと核兵器への憎しみをつづっている。

 桑本さんは大学4年生の時に読んだ。自らの経験について口を閉ざしていた祖父の「核兵器の被害を根絶したい」という思いを初めて正面から受け止めた。

 高校時代に短期留学で訪れた米国では、滞在先の家族や同世代の若者が原爆について何も知らなかったことに驚いた。「手記を世界中に広め、祖父の思いを伝えたい」。全文を英訳したいと願い続けていた。

 2005年に始め、家族で営む婦人服店の仕事や子育ての合間に翻訳。知人のカナダ人に読んでもらうなどして表現を練り、15年8月に完成させた。

 英訳版と原作の計1500冊を印刷し、市内の全ての公立図書館だけでなく、英訳版は海外の図書館などにも贈る。桑本さんは「一カ国でも多くの国の人に読んでもらいたい。戦争のない世界に近づくきっかけになれば」と話す。

 価格はいずれも1080円。販売場所などの問い合わせは出版元のグリーンブリーズTel082(511)3915。(土井和樹)

(2015年12月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ