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連載・特集

2015年広島県内重大ニュース <上> 平和への思い 次代へ

 広島県では2015年、ヒロシマが被爆から70年の節目を迎えた。スポーツ界ではJ1サンフレッチェ広島の3度目のリーグ制覇など朗報が相次ぎ、街は沸いた。繁華街で3人が死亡する雑居ビル火災や航空機事故など衝撃的なニュースも飛び込んできた。統一地方選で低投票率が目立ったが、安全保障関連法制をめぐっては賛否が渦巻いた。県内の重大ニュースを振り返る。

■被爆70年

「体験伝承者」が始動

 広島市が3年かけて養成した「被爆体験伝承者」の1期生50人が4月、始動した。被爆者から直接受け継いだ、あの日を含む半生の記憶と、平和への思いを次代へ伝える。

 中区の原爆資料館で毎日ある無料講話会が主な活動の場。聴いたのは11月末まで538回で6514人。県内外の学校などからの派遣要請も79件あった。

 廿日市市の主婦森河伸子さん(59)は、入市被爆した母河野キヨ美さん(84)=中区=の体験を英語も駆使して語る。「想像で語るしかなく不安だったが、聴く人の真剣なまなざしに、伝えたい気持ちが募ってきた」

 3月末時点で広島市の被爆者は5万8933人、平均年齢は79・58歳。同市を除く県内は2万4434人、82・10歳。あの日から70年。核軍縮などの方策を約190カ国で話し合う5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が5月に決裂するなど「核兵器なき世界」は見通せない。継承の意義が一層高まった一年だった。

 被爆者として認めるよう立ち上がった原爆被害者もいる。放射性物質を含む「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康を害したとして、県内の70~90歳の64人が11月、県、広島市に被爆者健康手帳の交付を求めて集団提訴した。住民団体の主導で区域拡大を目指しており、事実上、国との闘いだ。

 ただ、やはり区域拡大を掲げてきた安佐南区の「上安・相田地区黒い雨の会」は4月、高齢化のため解散を決めた。(田中美千子)

■スポーツ

サンフレ会心

 広島のスポーツ界は快挙が相次いだ。J1サンフレッチェ広島は第2ステージを優勝、年間勝ち点も1位で12月のチャンピオンシップ決勝に進み、ホームで2年ぶり3度目のリーグ制覇を決めた。佐藤寿人選手(33)はJ1歴代最多に並ぶ通算157得点をマーク。チームはクラブワールドカップも日本勢の過去最高に並ぶ3位に勝ち進んだ。

 全国高校駅伝では、世羅が史上2校目の男女同時優勝を達成した。男子は大会記録を塗り替えて最多の9度目の優勝を飾り、女子は初の頂点に立った。ゴルフでは金谷拓実選手(17)=国際学院高2年=が史上最年少の17歳51日で日本アマチュア選手権を優勝。日本オープン選手権も史上最年少でベストアマに輝いた。

 広島東洋カープは米大リーグから黒田博樹投手(40)、阪神から新井貴浩内野手(38)が8年ぶりに復帰。優勝への期待が高まり、主催試合の入場者は球団史上最多の約211万人に達したが、3年ぶりのBクラスに沈んだ。オフには、最多勝や沢村賞に輝いた前田健太投手(27)の大リーグ挑戦を球団が容認。ポスティングシステムでの移籍が濃厚となった。

 バレーボールのプレミアリーグ男子では、JTが悲願を達成した。創部85年目、旧日本リーグ時代から通算48回目の挑戦で初のリーグ制覇を果たした。

 和歌山国体で県選手団は男女総合得点(天皇杯順位)で21位に終わり、26年ぶりの20位台と低迷。今後の強化に大きな宿題を残した。(加納優)

■地域と交通

三江線廃止 JR西が検討

 公共交通の維持をめぐり、人口減が続く中山間地域に厳しい現実が突き付けられた。JR西日本が、三次市と江津市を結ぶ三江線(108・1キロ)の全線廃止を検討していることが10月、明らかになった。

 住民の声を受けた沿線6市町の首長たちは存続を求めているが、JR西は利用客減で赤字が続き採算の見通しが立たないとして「存続は厳しい」との姿勢を貫く。

 JR西は、持続可能な公共交通の在り方について沿線自治体と協議する方針で、来年3月末までに結論を出したい意向を示している。自治体は期限を設けることに反発。協議の開始時期は定まっていない。存廃の行方は予断を許さない状況だ。

 一方で、広島市を中心とした交通ネットワークは強化が目立った。JR山陽線とアストラムラインをつなぐ新白島駅(広島市中区)が3月に開業。JRは、在来線に「Red Wing(レッドウイング)」の愛称を付けた新型車両を32年ぶりに投入した。

 広島市内ではアストラムライン延伸、路面電車の駅前大橋線の導入も検討されている。軌道系交通の整備は、都市部と中山間地域で明暗が際立つ。

 道路は3月に、尾道市と松江市の間の約137キロを結ぶ中国やまなみ街道が全線開通した。両市間の移動時間は1時間20分短縮され2時間半になり、山陰―山陽―四国間で観光や物流が活発化した。東広島市と呉市を結ぶ東広島呉道路(32・8キロ)も全線開通した。(鴻池尚)

 1月

○被爆医師として核被害者に心を砕き、反核反戦の思いをつづった詩人御庄博実(本名丸屋博)さんが死去

 3月

○JR山陽線とアストラムラインの連結駅として新白島駅(広島市中区)が開業
○尾道市と松江市を結ぶ中国やまなみ街道が全線開通

 4月

○統一地方選の県議選などで投票率が戦後最低となり、無投票の選挙区や選挙も相次ぐ。広島市長選は現職が再選
○広島空港(三原市)でソウル発のアシアナ航空機が着陸に失敗

 5月

○マツダとトヨタ自動車が環境、安全技術を軸にした包括提携に基本合意

 6月

○来年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合の広島市開催が決定

 8月

○被爆から70年。核軍縮を目指す国際会議や市民集会が相次ぐ
○広島土砂災害から1年

 9月

○安全保障関連法が成立し、賛否が交錯

10月

○環太平洋連携協定(TPP)大筋合意。農業関係者は懸念し、経済界は歓迎
○黒田博樹投手が復帰した広島東洋カープがクライマックスシリーズ進出を逃し4位
○広島市中区流川町の雑居ビルで火災、3人が死亡
○JR三江線の全線廃止の検討問題が浮上

12月

○J1サンフレッチェ広島が2年ぶり3度目のリーグ制覇
○全国高校駅伝で世羅が男女同時優勝

(2015年12月29日朝刊掲載)

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