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社説・コラム

社説 慰安婦「解決」で合意 真の和解へ努力したい

 年の瀬の急転直下の決着を歓迎したい。きのう岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が会談し、日韓の懸案である従軍慰安婦問題の解決へ向けて合意した。

 「最終的かつ不可逆的な解決」をうたうものだ。安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領がすぐ電話会談し、政府間の約束として裏打ちした。両国とも政治的には苦慮しながらも、問題を前進させたことは評価できよう。

 存命中の元慰安婦は少なく、平均年齢が90歳に近い。名誉を回復し、支援できる時間は限られている。この機会を逃せば解決が難しくなる。双方とも合意事項を誠実に実行してほしい。

 隣国との関係を冷静に考え直した結果の合意であろう。国交正常化から50年の節目である上に核開発を続ける北朝鮮などアジアの安全保障を考えれば、連携は欠かせないからだ。

 何より安倍首相が予想以上に踏み込んだのが大きい。

 両外相の会見によれば慰安婦問題は「軍の関与の下」で起こり、日本政府は責任を痛感するとした上で、首相の「おわびと反省の気持ち」を表明するとした。1993年の河野談話を踏襲した表現といえるが、安倍政権を支える一部の保守勢力には否定的な声が強かった。その中で首相が歩み寄り、韓国政府や元慰安婦も評価する河野談話を継承する姿勢を明確にしたのは妥当な判断といえる。

 元慰安婦への医療や福祉支援のため、新たな基金を設けることも合意された。韓国政府が財団をつくり、日本政府の予算からは10億円を拠出する。

 一方で、岸田外相は慰安婦問題の法的責任は65年の日韓請求権協定で「解決済み」との見解は変わらないと強調した。今回の支援も人道的な観点からであり、国家による賠償ではないとの立場である。

 とはいえ、日本政府がこれまで以上に前面に出ることは確かだ。韓国が慰安婦問題は請求権協定の対象外と主張してきた点を踏まえ、双方が折り合えるぎりぎりの線なのだろう。

 韓国政府も受け入れた以上、合意が国内世論に受け入れられるよう努力が欠かせまい。元慰安婦の支援団体や世論に押される形で、日本への要求を繰り返してきた経緯があるからだ。

 国連など国際社会で互いに非難や批判するのを控えることも合意した。そこで不安要因の一つは日本大使館前の少女像の扱いである。外交公館の品位保護の条約に反するとして、日本は善処を求めていた。尹外相は設置した支援団体との協議を約束したものの、移転などが実現するのかは見通せない。朴大統領はどう対処するのだろう。

 日本側の姿勢も問われる。これまで保守系の政治家が過去を否定する発言をし、関係を悪化させてきた。ただ忘れてはならないのは日本は慰安婦問題で加害者であり、女性の人権の観点からも批判されている点だ。

 今度こそ日韓関係の悪循環を断つとの共通認識に立ちたい。

 ほかにも歴史認識に関わる懸案は山積みだ。植民地時代の強制連行をめぐる対立は根深い。慰安婦に関しても世界記憶遺産に登録する動きがある。

 きのう安倍首相は「子や孫に謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかない」と述べた。ならば謙虚な姿勢で真の和解に向けて一段の努力を求めたい。

(2015年12月29日朝刊掲載)

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