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連載・特集

2015政界を振り返る 中国地方選出議員の動き

「安倍1強」随所に

 「安倍1強」が際立った一年だった。安倍晋三首相(山口4区)は、集団的自衛権行使を可能にし、戦後の安全保障政策を大転換する安保関連法を成立させ、第1次政権からの宿願を果たした。長期政権の足場を固め、来年夏の参院選勝利も狙う。一方の野党は、民主党と維新の党が衆院で統一会派を組み、野党再編を視野に参院選前の合流を模索する。中国地方選出の国会議員の動きを中心に、永田町の2015年を振り返った。(城戸収、清水大慈、藤村潤平)

■安保関連法成立

違憲批判押し切る

 「戦後初の大改革。夏までに成就させる」。安倍首相は4月、米議会での演説で安保関連法の成立を「約束」した。日米同盟を強化し、米国との「対等な関係」を志向する安倍政権の安保政策は、同法成立で一つの到達点を迎えた。

 会期を戦後最長の95日間延長し、9月27日までの約8カ月間にわたった通常国会。反対デモの人波が国会周辺に押し寄せる中、安保関連法は9月19日未明の参院本会議で可決。首相は成立後、「国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要だ」と強調。「戦争法案」との批判に「レッテル貼りは全く無責任」と繰り返した。

 閣議決定する法案内容をめぐり、2月に本格化した与党協議を担ったのは自民党の高村正彦副総裁(山口1区)。憲法学者を中心に広がった「違憲」批判にも1959年の砂川事件最高裁判決を根拠に反論した。

 安保関連法は、4月に改定した日米防衛協力指針(ガイドライン)の法的根拠を担保するためにも整備を急ぐ必要があった。岸田文雄外相(広島1区)たちがニューヨークに赴き、地球規模で平時から有事まで「切れ目のない」連携をうたう指針改定に合意した。

 批判を押し切っての同法成立の過程は「安倍1強」政治を色濃く映し出した。首相は9月、自民党総裁に無投票で再選され、その色合いはさらに強まる。

 翌10月発足の第3次安倍改造内閣では、岸田氏や石破茂地方創生担当相(鳥取1区)たち主要閣僚は留任させ、目玉の1億総活躍担当相に加藤勝信氏(岡山5区)、首相補佐官に河井克行氏(広島3区)を起用。環境副大臣に平口洋氏(広島2区)、国土交通政務官に江島潔氏(参院山口)を充てた。

 また、自民党が内定した衆院の常任、特別委員長人事では、議院運営委員長に河村建夫氏(山口3区)、予算委員長に竹下亘氏(島根2区)、外務委員長に岸信夫氏(山口2区)、環境委員長に赤沢亮正氏(鳥取2区)たちが就く。来年1月4日召集の通常国会で選任される。

 消費税増税に伴う軽減税率制度の議論も、首相の意向が強く働いた。導入に否定的だった自民党税制調査会長を事実上更迭、後任に宮沢洋一氏(参院広島)を据えた。宮沢氏は林芳正氏(参院山口)とともに、斉藤鉄夫税調会長(比例中国)たち公明党側と協議を重ねた。財源問題で議論が行き詰まる中、公明党の要求を丸のみする形で決着させたのも首相だった。

■被爆70年

NPT会議決裂

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が4月、米ニューヨークで開幕。岸田外相が日本の外相として10年ぶりに演説した。ただ岸田氏も演説で呼び掛けた、世界の指導者たちへの広島・長崎訪問の要請は、最終文書の素案段階で中国の反対により記述が削除された。会議は最終文書を採択できずに決裂し、核兵器保有国と非保有国の対立をあらわにした。

 安倍首相は6月、来年5月の主要国首脳会議(サミット)の開催地を三重県志摩市に決定。広島市では、伊勢志摩サミットに先立つ4月に外相会合の開催が決まった。オバマ米大統領をはじめとする各国首脳の被爆地訪問が実現するかが焦点になる。

 被爆70年の節目に、被爆者援護の拡充や核兵器廃絶を求める動きも目立った。自民党の「被爆者救済を進める議員連盟」は寺田稔氏(広島5区)たちが中心になって厚生労働省に要請。民主党は6月に被爆者問題議員懇談会の活動を3年ぶりに再開させた。

 一方、原爆症認定は、新基準の対象外でも原爆症と認める地裁判決が広島や大阪などで相次いだ。被爆者救済に向けた政治のありようがあらためて問われる。

■選挙制度改革

島根・鳥取合区くすぶる不満

 「1票の格差」是正に向けた参院選挙制度改革が節目を迎えた。島根・鳥取、徳島・高知の合区を含め、定数を「10増10減」する改正公選法が7月に可決、成立。来年夏の参院選から適用される。

 自民党の溝手顕正参院議員会長(広島)は、4野党がまとめた10増10減案の受け入れ方針を決断し、党内の意見集約に奔走。だが、合区対象の議員は「地方の声が届かなくなる」と強く反発し、青木一彦、島田三郎(いずれも島根)、舞立昇治(鳥取)の3氏は同法改正案の採決を棄権した。

 自民党執行部は、立候補できない県の候補者を比例代表で公認し「県代表枠」を確保する救済策を講じる。島根・鳥取では、合区選挙区と比例代表で候補者を「すみ分け」させるめどは立ったものの、地元に不満はくすぶる。野党側は合区選挙区で、民主党が中心となって擁立する候補者を無所属統一候補とする方向で最終調整を急いでいる。

 一方、衆院の選挙制度改革をめぐっては、有識者調査会が今月、小選挙区、比例代表の定数を計10減らし、都道府県の人口比をより反映できる方法を採用する答申内容を決めた。広島県の小選挙区も1減となる。自民党内の反発は必至で、細田博之幹事長代行(島根1区)も消極的な発言をしている。与野党で合意形成できるかは見通せない。

 また、選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公選法が6月に可決、成立。自民党では中川俊直氏(広島4区)、小林史明氏(広島7区)たち若手が対策に取り組むなど、来夏の参院選に向けて各党の動きが本格化している。

■低迷する野党

再編視野に共闘模索

 衆院で3分の2を上回る与党を前に、野党は存在感を発揮し切れなかった。結集への確かな道筋も見いだせていない。

 民主党は1月の代表選で岡田克也氏を新代表に選出。中国地方選出の同党の5人のうち、津村啓介、柚木道義(いずれも比例中国)、柳田稔(参院広島)の3氏は細野豪志氏を支持。森本真治(参院広島)、江田五月(参院岡山)の両氏は投票先を明かさなかった。ただ4月の統一地方選では、中国地方の5県議選をはじめ全国的に苦戦。新体制になっても党勢低迷を脱することはできていない。

 一方、維新の党は今夏以降の分裂問題が12月にようやく収拾。松野頼久代表は来年夏の参院選を見据え、民主党との統一会派結成など野党再編に向けた取り組みを強化する構えだ。

 しかし、民主党内には解党を求める維新側の主張に慎重論は根強く、共産党との連携をめぐる対立も顕在化した。国政政党「おおさか維新の会」に参加せず、維新の党に残った高井崇志氏(比例中国)は再編の動きを注視する。

 水面下で岡田氏や共産党の志位和夫委員長と接触するのは無所属の亀井静香氏(広島6区)。一方で官邸や与党を巻き込んで超党派の政策グループ「根っこの会」を結成し、地域活性化に取り組んだ。

 次世代の党を結党した平沼赳夫氏(岡山3区)は10月、10年ぶりに自民党へ復党。次世代の党はその後、「日本のこころを大切にする党」に党名を変え、所属議員は浜田和幸氏(参院鳥取)たち4人になった。

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<2015年の主な出来事>(肩書は当時)

 1月18日 民主党代表に岡田克也氏を選出
   26日 通常国会が開会
 2月23日 西川公也農相が政治資金問題で引責辞任。後任に林芳正氏
 3月26日 統一地方選前半戦スタート
 4月12日 統一選前半戦投開票。広島市長に松井一実氏再選。島根県知事に
       溝口善兵衛氏、鳥取県知事に平井伸治氏がそれぞれ3選
   26日 統一選後半戦投開票
   27日 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が米ニューヨークで開幕
   28日 日米首脳会談。「新時代の同盟」を強調
   29日 安倍晋三首相が日本の首相では初めて米議会両院合同会議で演説
 5月14日 政府が安全保障関連法案を閣議決定
   17日 大阪都構想の賛否を問う住民投票で反対多数。橋下徹大阪市長が
       政界引退を表明
   19日 維新の党代表に松野頼久氏
   22日 NPT再検討会議が最終文書を採択できずに閉幕
 6月 4日 衆院憲法審査会で憲法学者3人が安保関連法案を「違憲」と表明
    5日 政府が16年の主要国首脳会議を三重県志摩市で開催すると発表
   17日 選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公選法が成立
   26日 サミット外相会合の広島市開催発表
 7月 5日 世界遺産に「明治日本の産業革命遺産」
   16日 安保関連法案が衆院通過
   17日 安倍首相が新国立競技場計画の白紙化表明
   28日 参院選で「島根・鳥取」「徳島・高知」の2合区を導入する改正
       公選法が成立
 8月11日 川内(せんだい)原発1号機が再稼働
   14日 安倍首相が戦後70年談話発表
 9月 8日 自民党総裁に安倍首相が無投票再選
   19日 安保関連法が成立
10月 5日 環太平洋連携協定(TPP)が大筋合意
    7日 第3次安倍改造内閣発足
   13日 沖縄県知事が辺野古埋め立ての承認取り消し
   31日 国政政党「おおさか維新の会」結党
11月 1日 日中韓首脳が3年半ぶり会談
    2日 日韓首脳会談。慰安婦問題の交渉加速で一致
   13日 パリ同時テロで130人死亡
   25日 14年衆院選「1票の格差」訴訟で、最高裁が「違憲状態」判断
12月11日 民主党と維新の党が統一会派結成で合意
   16日 与党が軽減税率を盛り込んだ税制改正大綱を決定▽衆院選挙制度
       改革で有識者調査会が定数10減の答申まとめる

(2015年12月29日朝刊掲載)

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