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連載・特集

ヒロシマの記録2015 1~6月 核軍縮 機運高まらず

 米国が広島、長崎に原爆を落として70年。生き抜いてきた被爆者の証言をいつにも増して見聞きし、平和な街に暮らすありがたさを考えずにはいられない「節目」の年だった。

 広島県被団協(佐久間邦彦理事長)の理事長を20年超務め、被爆者運動を引っ張ってきた金子一士さんが1月に89歳で亡くなった。被爆者の平均年齢は初めて80歳を超え、80・13歳に。一人、また一人、あの日の惨禍を語れなくなる。だからこそことし、多くの被爆者が国内外で「核兵器を使うな」「なくせ」と声を振り絞った。

 国際社会はまだ応えていない。約190カ国が5年に1度、核軍縮の方策を話し合う核拡散防止条約(NPT)再検討会議が5月、最終文書を採択できず決裂した。4週間の議論では、核兵器の力を保ちたい保有国側と、非人道性を掲げて核兵器禁止を訴える多数の非保有国側の対立が激化。被爆地の失望を大きくした。

 その非核外交の場で、被爆国政府は「歴史認識カード」を切られた。中国の軍縮大使が、日本が加害の歴史を覆い隠すために原爆被害を強調しようとしていると主張し、世界の指導者たちに被爆地訪問を呼び掛けるくだりを最終文書案から削除するよう求めたのだ。12月の国連総会本会議では、日本が主導し、被爆地訪問を促す記述を初めて盛り込んだ核兵器廃絶決議が採択されたが、中国は反対した。

 日本国内では、集団的自衛権を使えるようにする安全保障関連法案が7月に衆院で、9月に参院で可決、成立した。国会審議の最中にあった8月6日の平和記念式典で、安倍晋三首相は1994年以降に参列した首相では初めて、非核三原則の堅持に触れなかった。政府の考える日本の平和の在り方と核兵器廃絶の道筋に、少なからぬ被爆者と市民が疑問を抱いているのは間違いない。

 各国は、11月に起きたパリ同時多発テロ後、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)への武力行使を強化。米大統領選の共和党指名争いでは、極端な排外的主張をする候補も現れた。「報復ではなく和解を」という被爆者の精神を説く役割が政府には一層期待される。

 広島市では、3年にわたる研修を受けた「被爆体験伝承者」の1期生が4月にデビュー。被爆者本人から直伝されたあの日の記憶と平和への思いを語り継ぐ。「70年は草木も生えない」と言われた街の復興に、関わった市民はさらに老いている。その営みを歴史に記録する取り組みも急がれる。(岡田浩平)

1月

 3日 原爆投下直後の広島で救援に当たった陸軍船舶司令部の作戦命令書が防衛省防衛研究所に現存し、1945年8月9日正午に下達された第53号までの50通を確認できると中国新聞が伝える

 4日 広島県被団協の金子一士理事長が89歳で死去

15日 佐藤栄作政権が非核三原則を掲げる前年の66年に、外務省を中心に国連総会で核兵器の持ち込み禁止に反対する方針を決めていたと、公開の外交文書で明らかになる。70年には中曽根康弘防衛庁長官が米軍による核持ち込み容認を示唆していたことも判明

17日 50年代後半、原爆を使用する日米共同図上演習が日本国内で実施されたのを受け、米軍が「自衛隊の核武装を望む」とする見解をまとめていたことが米解禁公文書から判明。米国が核弾頭を提供して有事に共同使用する北大西洋条約機構(NATO)の「核共有」方式を想定

18日 被爆医師で詩人の御庄博実(本名丸屋博)さんが89歳で死去

20日 マーシャル諸島ビキニ環礁での米国の水爆実験で静岡県焼津市のマグロ漁船第五福竜丸が被曝(ひばく)した事件で、厚生労働省が周辺海域で当時操業していた他の日本船船員の被曝状況の研究班の設置判明▽英国防相が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「トライデント」として配備してきた核弾頭数を160から120に減らしたと、議会で表明

30日 原爆症認定申請を却下された兵庫県と京都府の被爆者7人が却下処分取り消しなどを求めた訴訟の判決で、大阪地裁が4人を原爆症と認める

31日 東京都国立市が被爆体験を次世代に語り継ぐ伝承者の育成事業を始める

2月

 2日 国際平和ビューローが2015年のノーベル平和賞候補に、日本被団協と、被爆者の谷口稜曄(すみてる)さん=長崎市、サーロー節子さん=広島市南区出身=を推薦したと中国新聞が報道

11日 赤十字国際委員会のペーター・マウラー総裁が広島市の原爆資料館を見学

18日 広島市出身の被爆作家原民喜が小説「夏の花」の下敷きにした原爆被災時の手帳を、遺族が原爆資料館に寄託

22日 福山市内の被爆者や被爆2世たち500人でつくる市原爆被害者の会が臨時役員総会で、3月末での解散方針を決定

3月

 1日 第五福竜丸が被曝して61年のビキニデー。原水禁国民会議、日本原水協などがそれぞれ静岡県内で集会を開く

 2日 イスラエルのネタニヤフ首相が、イラン核問題の包括解決へ欧米など6カ国とイランが目指す合意について「イスラエルの生存を脅かしかねない」と強く懸念

 6日 広島市が平和記念公園で進めていた中央参道の舗装改良工事が終了

 8日 米ワシントン州のハンフォード核施設で、高レベル放射性廃液を保管する地下タンク177基のうち少なくとも14基に壁の損傷があり、廃液が漏れ出す危険性が高いことが米政府監査院の報告書などで判明

11日 東日本大震災に伴う福島第1原発事故発生から4年。広島市の原爆ドーム前で脱原発集会を広島県原水禁や県原水協などでつくる実行委員会が開く▽広島市議会が核兵器廃絶と世界恒久平和の実現へ全力を尽くすと決議

14日 62年のキューバ危機の際、米軍内でソ連極東地域などを標的とする沖縄のミサイル部隊に核攻撃命令が誤って出され、現場の発射指揮官の判断で発射が回避されていたことが部隊の元技師らの証言で判明

15日 ロシアのプーチン大統領が国営テレビ放映の特別番組のインタビューで、14年2月にウクライナで親ロシア政権が倒れた際、核戦力に戦闘準備を指示していたと発言

16日 54年のビキニ環礁での米国の水爆実験をめぐり、高知県が、当時周辺海域にいた漁船の元乗組員の健康不安などに対応するため被曝医療の専門家らによる相談会を室戸市で初めて開く

19日 戦中に三菱重工業広島造船所へ徴用されて原爆に遭った韓国在住の成(ソン)世和(セファ)さんに、広島市が「証人」がいなくても被爆者健康手帳を交付したと判明。戦後、三菱重工から未払い賃金の供託を受けた広島法務局の名簿を基にした初めてのケース

20日 広島市のマツダスタジアム北側に、故中沢啓治さんの漫画「広島カープ誕生物語」に登場する原爆孤児の主人公たちをモチーフにした像が完成

21日 広島県内の朝鮮人被爆者の子どもたちでつくる「県朝鮮人被爆者2世の会」が発足

23日 広島で原爆が投下された直後に降った「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を受けたとして広島市の36人が市へ被爆者健康手帳の交付を集団申請。国に区域拡大を迫るため広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会が主導した第1陣

27日 在韓被爆者渡日治療広島委員会が、韓国の被爆者を広島に招いて無償で治療してきた功績を韓国政府に認められ、外交部長官表彰の表彰状を受け取る

4月

 1日 ロシア軍が3月中旬に実施した大規模演習の際、核兵器の限定的先制使用の可能性を想定していたと判明▽平和首長会議が、世界各地の「リーダー都市」が活動を引っ張る体制を開始

 4日 福山市原爆被害者友の会が発足し、初代会長に被爆2世が就く

 5日 原爆ドームが広島県物産陳列館として建って100年

 8日 広島県が、核軍縮と核不拡散、核物質の安全管理の3分野で世界36カ国を採点した「ひろしまレポート」を発表。北朝鮮が過去2回と同様、全分野で最低点

 9日 広島市が養成し、被爆者の記憶を次代に語り継ぐ「被爆体験伝承者」が誕生

10日 広島市のNPO法人ワールド・フレンドシップ・センターが創立50年記念式典を開催

15日 ドイツでの主要7カ国外相会合が「核兵器のない世界に向けた環境を醸成する」との声明を採択

17日 米国のキャロライン・ケネディ駐日大使が着任後初めて広島市の平和記念公園で原爆慰霊碑に献花し、原爆資料館を見学

22日 原爆資料館の14年度入館者数発表。131万4091人で13年度より5%減も、外国人は23万4360人で過去最多に▽首相官邸の屋上で見つかった小型無人機「ドローン」から放射性セシウム検出

24日 安芸高田市甲田町の被爆者でつくる甲田町原爆被害者の会が解散▽米ニューヨークで各国の非政府組織(NGO)による「国際平和地球会議」が2日間の日程で始まる▽米国のガテマラー国務次官が、戦略核の運用を統括する米戦略軍司令部が実際の作戦立案で攻撃目標の変更などにより核兵器の役割を縮小している、と明かす

25日 広島市安佐南区の上安・相田地区黒い雨の会が総会で解散を決める

26日 チェルノブイリ原発事故から29年。広島市で脱原発を訴える座り込みや街頭活動▽米ニューヨークで、核拡散防止条約(NPT)再検討会議を前に広島の被爆者たち7500人がデモ行進

27日 NPT再検討会議が米ニューヨークの国連本部で開幕。岸田文雄外相が演説で、世界の政治指導者や若者に広島、長崎を訪問するよう呼び掛け▽日本被団協が国連本部ロビーで開催中の原爆展会場で広島、長崎の被爆者らによる証言活動が始まる▽新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)決定

28日 日米両政府がNPTに関する共同声明を発表し、核兵器保有国と非保有国が核軍縮に向けた協力関係を構築するため、連携する姿勢を打ち出す▽日本やオーストリアなど159カ国がNPT再検討会議で、核兵器の非人道性を訴え不使用を求める共同声明を発表。同趣旨の声明はこの3年間で6回目

29日 平和首長会議が国連本部で集会を開き各国の政治指導者へ核兵器禁止条約の交渉開始を促す「ニューヨークアピール」を採択。広島県も国連本部でパネル討議を主催し、湯崎英彦知事が指導者たちの被爆地訪問を提唱▽原爆投下前の広島の町並みをコンピューターグラフィックスで再現してきた広島市の映像作家田辺雅章さんが新作映画のDVDを国連に寄贈

30日 中国電力が電気事業法に基づき、営業運転開始から約41年の島根原子力発電所1号機を廃炉。中電の廃炉は初めてで、中国地方の原発は島根2号機のみに▽NPT再検討会議で、オーストラリアや日本など26カ国が、安全保障の重要性に考慮して段階的な核軍縮を進めるよう促す共同声明を発表▽国連本部で平和首長会議が「ユースフォーラム」開催

5月

 1日 広島市の松井一実市長がNPT再検討会議の公式行事「NGOセッション」で演説し、安全保障環境を理由に核軍縮を進めない保有国の姿勢を非難

 2日 キューバの革命指導者のフィデル・カストロ前国家評議会議長が同国を訪れた岸田外相と会談し、03年の広島訪問や核兵器がもたらす悲惨さについて語る

 8日 NPT再検討会議の第1委員会(軍縮)が最終文書の素案配布。国連の下、核兵器禁止条約など法的枠組みを速やかに検討するよう促す内容を盛り込んだほか、各国の政治指導者たちが広島、長崎を訪れて被爆者の声に耳を傾ける提案も

11日 中国の傅聡軍縮大使がNPT再検討会議の最終文書素案のうち、指導者らに広島、長崎の被爆地訪問を要請する部分について「歴史を歪曲(わいきょく)するものだ」として削除を求めたと明かす

12日 NPT再検討会議の第1委員会が配布した最終文書の素案改定版で、指導者たちに被爆地訪問を呼び掛ける部分を削除

14日 NPT再検討会議第1委員会の議長が最終文書草案を各国に配る。核兵器禁止条約などの法的枠組みを検討するよう促す記述が残っているため、核兵器保有国側が猛反発。非保有国側は「非人道性をめぐる表現が弱まった」と訴える

20日 白内障を患う広島県内の被爆者4人が原爆症の認定申請を却下されたのが不当として国に処分の取り消しなど求めた訴訟の判決で、広島地裁が2人を原爆症と認める

21日 パン製造販売のアンデルセンが広島市の本通り商店街に面した広島アンデルセンの全館建て替えを発表。被爆建物の旧館を取り壊すが、被爆部分の外壁は可能な限り保存へ

22日 原爆ドームの初の耐震補強工事で広島市が、鋼材で補強する工法の採用を決定▽NPT再検討会議が最終文書を採択できずに決裂して閉幕。事実上の核保有国イスラエルの非核化をにらんだ「中東非核地帯構想」をめぐり、同盟国の米国とアラブ諸国との対立が原因▽オーストリアが主導してNPT再検討会議に提出した、核兵器禁止の努力をうたう「人道の誓約」に会期中に107カ国が賛同。日本は不参加

23日 NPO法人ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会(東京)が拠点施設「継承センター」の設立構想を発表。継承・交流と関連資料の収集・発信の2本柱

26日 自民党の被爆者救済を進める議員連盟が、原爆症認定制度の見直しを含む「被爆者救済の抜本的拡充は急務」とする決議を採択。政治指導者に被爆地訪問を呼び掛けるよう政府への要請も盛り込む

28日 原爆資料館が、初代館長を務めた長岡省吾氏が収集した被爆関連資料の一部を公開

29日 広島県被団協(坪井直理事長)が総会で規約を改定し、2世や活動に賛同するボランティアも会員になれるよう明確化

6月

 7日 広島原爆で放射性降下物が検出された地区に住み、後に四つのがんを相次いで発症した女性のがん組織から内部被曝の証拠となる放射線の痕跡を広島大と長崎大の研究グループが発見したと、広島市での原子爆弾後障害研究会で報告

 8日 国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所が東南アジア各国政府の外交担当の若手職員を招き、核軍縮をテーマにした初の研修会を広島市で始める▽ドイツでの主要国首脳会議(サミット)が採択した首脳宣言で、NPT再検討会議で最終文書に合意できなかったのを「極めて遺憾」と指摘。「NPTは核不拡散体制の礎石」と強調する

12日 広島県被団協が金子前理事長の後任に佐久間邦彦副理事長を選ぶ

13日 米ワシントンのアメリカン大で20年ぶりとなる原爆展が始まる

15日 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が、1月時点の世界の核弾頭総数が1万5850個となり、14年と比べ500個減ったとの推計を発表

17日 国外居住を理由に国が被爆者援護法に基づく医療費の全額支給をしないのは違法な差別だとして、在米被爆者13人が広島県と国を相手取り、支給申請を却下した県の処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟の判決で、広島地裁は「在外被爆者が国外の医療機関で受けた医療は支給対象にならない」と判断し、請求を退ける▽広島文学資料保全の会と広島市が、原爆詩人栗原貞子たち被爆作家3人の直筆文書3点について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産への登録を求める申請書を日本ユネスコ国内委員会に提出▽民主党の被爆者問題議員懇談会が国会内で会合を開き、3年ぶりに活動を再開

20日 放射線影響研究所の大久保利晃理事長が退任し、京都大名誉教授で福島県立医大客員教授の丹羽太貫氏が新理事長に就任

22日 長崎大核兵器廃絶研究センターが、米ロなど世界の核保有国が持つ核弾頭数を推計し、9カ国に計1万5700発あるとの研究結果を発表

26日 政府が、16年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合を広島市で開くと発表▽戦時中に海軍の依頼で原爆開発を研究し、原爆投下直後の広島で現地調査の結果、新型爆弾を「原子爆弾」だと初めて科学的に判定した京都帝大の荒勝文策教授が残した当時の分析資料の原本や弟子の研究ノートが見つかったことが判明▽在韓被爆者79人が、韓国政府が日本に対して賠償請求権の存在を確認する措置を取ろうとしないのは違法だとして損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁が請求を棄却

27日 原爆小頭症患者や家族たちでつくる「きのこ会」が結成50年

29日 静岡県御前崎市議会が核兵器廃絶を訴える平和都市宣言を全会一致で採択。市は浜岡原発が立地していることから「平和を願う気持ちだけで十分」として見送ってきた

(2015年12月31日朝刊掲載)

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