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こう変わる広島の原爆資料館 見学コース一新、臨場感増す展示 東館が今春新装

 原爆資料館(広島市中区)の東館が今春、新装オープンする。入れ替わりに本館が閉じ、耐震化と展示見直しに向けた工事が始まる。全面オープンは2018年春。世界中から訪れる人びとに被爆の実態はどう伝わるのか。有識者検討会議の議論からイメージしてみる。(田中美千子)

順路

 東館1階から入館すると、新設のエスカレーターで3階まで一気に上る。導入展示を見た後、まずは原爆被害の実態を伝える本館へ向かう。従来は広島の歴史や核をめぐる国際情勢を学ぶ東館から巡る順路だったのが変わる。

導入展示

 ①東館3階に入ると、活気ある町の写真が現れる。破壊される前の爆心地付近だ。「8月6日の壁」の先へ進むと今度は被爆間もない時期の、焼け野原のパノラマ写真が広がる。

 ここのメーンは、市街地の地形を白い樹脂でかたどった直径5メートルの「ホワイトパノラマ」。被爆前後の航空写真を基にした映像が投映され、町が一瞬のうちに破壊される様が、目に焼き付く。

 ②市民にもたらされた非人道的な被害に向き合う場だ。

 立ち上るきのこ雲などの写真に続き、被爆資料の「集合展示」がある。焼け焦げたシャツや自転車といった日用品から、変形した鉄扉などの大型資料まで、敷き詰めたがれきの上に「実物」がずらり。やけどに苦しむ被爆者の写真もある。

 これまでなかった手法の狙いを、学芸員の落葉裕信さんは「少しでも『あの日』に近づいてもらえるよう、臨場感を高められたら」と説明する。

 学生服、靴など個別に展示する遺品には、持ち主の遺影と生前のエピソードを添える。読み進めると、原爆が奪った一人一人の「生」が迫ってくる。「断たれたのが自分の人生だったら、奪われたのが自分の家族だったら…。想像し、共感してほしい」と落葉さん。

 本館の閉館中は、被爆資料の一部を東館1階の企画展示コーナーで公開する。被爆者の姿を再現する人形は閉館と同時に撤去する。

 ③本館3階から連絡通路を通って東館へ戻り、各自の興味に沿って学びを深める。

 3階は「核兵器の危険性」がテーマ。展示室の中央に、縦2・5メートル、横12メートルの情報端末「メディアテーブル」があり、タッチパネルの画面が24枚並ぶ。「原爆とは」「なぜ広島に投下されたのか」など知りたい項目を選んで情報を読め、小学生向けと、英語版もある。

 壁面には、原爆開発の歴史、原爆被害の特徴が分かる科学的データなどの解説パネルが並ぶ。溶けたガラス瓶や被爆瓦にも触れられる。

 2階は「広島の歩み」。復興を振り返る写真のスライドショーを見られ、一回り小さいメディアテーブルもある。1階は企画展示コーナーやミュージアムショップ、情報コーナーなど。核兵器の廃絶と平和を願う気持ちを新たにし、館外に踏み出す。

原爆資料館
 1955年に本館、94年に東館が開館した。約2万点の収蔵資料のうち約420点を常設展示し、2014年度の入館者数は131万4091人。14年3月、本館の耐震化に合わせた全面改修に着手。18年春の完成を目指す。

(2016年1月1日朝刊掲載)

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