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社説・コラム

社説 首相の年頭会見 挑戦の中身が問われる

 「挑戦、挑戦、挑戦あるのみ」。きのう安倍晋三首相は年頭の記者会見で胸を張り、挑戦という言葉を20回以上繰り返した。問題は、その中身である。

 第2次安倍政権が発足して3年が過ぎた。経済最優先を掲げて走り続けてきたが今年こそ、その真価が問われよう。環太平洋連携協定(TPP)の署名が2月にも予定される。さらに昨年、強引に成立させた安全保障関連法も3月の施行を待つ。

 政治、経済ともに日本が大きな曲がり角に差し掛かる年、首相はどこに向けてアクセルをふかそうというのだろう。

 会見では、憲法改正を参院選の争点に掲げる考えを示した。「国民的な議論を深めていきたい」という言い方だが、公布から70年間なし得なかったことを自らの手でという意欲がにじんでいるように見える。

 夏の参院選で改憲勢力が議席の3分の2を占めるかどうかが焦点となる。政府・与党で想定するのは「緊急事態条項」とみられている。テロや大災害で首相の権限を強める規定である。憲法9条改正への地ならしとの位置付けでもあるのだろう。

 しかし改憲は国民による冷静で慎重な議論が欠かせない問題であり、首相個人の「挑戦」に含めているとすればおかしい。

 会見で掲げたもう一つの大きな目標は、やはり経済成長である。雇用改善や賃上げの成果に触れ「もはやデフレではない」と歯切れ良く語った。だが実情とずれがあるのではないか。

 それが垣間見えたのが年明けの東京株式市場だろう。中国の景気減速の懸念が広がり、株価が大きく下がる大荒れのスタートとなった。昨年12月の日銀短観でも、3カ月後の景気は悪くなると見込んでいる。

 あるいは首相も難しさを感じているから「挑戦」という言葉を使ったのかもしれない。国内総生産(GDP)600兆円という目標を軸にした1億総活躍社会の実現に挑戦するとあらためて強調した。そのために「木を植える政治家でありたい」と語りつつも「苗木はすぐには花を付けない」とも口にした。

 確かに、人口が減り、縮む社会での成長は並大抵ではない。なのに中小企業が活躍するドラマ「下町ロケット」や戦後の高度経済成長も持ち出して「挑戦を決して諦めなかった先人たちが豊かな日本を築いた」と述べたのは楽観的に過ぎよう。

 実現性の不確かなばら色の未来ばかりを語り、少子高齢化の厳しい現実から目を背けてもらっては困る。消費税の税率10%への引き上げまであと1年3カ月。軽減税率を含めて国民にどう負担を求めるかの議論は欠かせないのに、首相はそのことを重視しているとは思えない。

 きのうは通常国会が幕開けした。ただ国民にきらびやかな言葉を並べる一方、首相として国会論戦にどこまで真剣に向き合うつもりがあるのだろうか。  「未来に挑戦する国会」という言葉が上滑りしていないか。きのう本会議の首相発言は昨年来の外交報告にとどまった。安倍政権の今後を占う施政方針演説は、外国訪問との兼ね合いでずれ込むとの見方もある。

 しかし今国会では予算案をはじめ、TPPなど重要懸案の論戦に地道に誠実に向き合うことこそ求められる。「安倍1強」を過信してはならない。

(2016年1月5日朝刊掲載)

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