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社説・コラム

社説 サミットと日本外交 対話と協調を進めたい

 日本外交にとって、まさに正念場の年となろう。

 最大の外交舞台が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)である。国際社会が直面する課題の解決に向け、議長を務める安倍晋三首相はリーダーシップを発揮できるだろうか。

 昨年末に韓国大統領と慰安婦問題で合意をするなど、近隣外交では一定の成果を挙げつつある。ただサミットには別次元の難しさがある。各国の意見を束ね、複雑に絡み合った利害関係を調整せねばならない。

 ましてや今回の議長国の役回りは一筋縄ではいくまい。任期満了を控えたオバマ米大統領のスタンスは不透明で、大統領選に向け国内世論も意識するため内向きとなりかねないからだ。

 サミットの主要議題には中東問題とテロ対策が真っ先に上がるだろう。年明け早々、イスラム教の宗派対立を背景にイランとサウジアラビア、バーレーンなどの国交が断絶された。かねて遺恨が絡む国同士とはいえ、産油地域が不安定になれば、世界経済にも暗い影を落とす。

 シリア内戦をどう終わらせるかも重要となる。過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロとも関係してくる話である。IS掃討には欧米諸国やロシアも足並みをそろえるが、アサド政権との関係については各国の思惑は異なっている。

 サミットの枠組みから除外されたロシアと協議する場を他にどう設けるか。春先にも安倍首相のロシア訪問が取り沙汰されている。調整力が試される局面となろう。

 そこで欠かせないのは平和国家の信頼ではないか。以前に比べて中東における日本の存在感は高いとはいえず、逆に集団的自衛権行使を可能にする安全保障法制とともに、米国追随のイメージが広まりかねない。

 ISを排除しても新たなテロ組織が生まれる恐れがある。貧困や格差、政治腐敗など過激思想の温床をどう取り除くか。この分野で日本の貢献が必要だ。

 日本は今月から11回目となる国連安全保障理事会の非常任理事国に就いた。「積極的平和主義」を掲げる安倍首相だが、対話や協調こそ求められている。

 アジア地域の安定や平和に力を尽くすのは当然のことだ。欧州諸国にすれば中東やウクライナ問題より優先順位は低いかもしれない。ただ議長国はテーマ設定の権限もある。中国の海洋進出や北朝鮮の非核化も議論のテーブルに乗せ、国際社会としての歯止めを明確に築きたい。

 サミットにおいては被爆国の責務も忘れてはならない。安倍首相はきのう記者団に「率直に議論し、実り豊かな成果を出したい」と訴えた。ならば核廃絶の協力も呼び掛けるべきだ。

 サミットに先立ち広島市で開かれる外相会合は大きなチャンスとなる。核保有国に被爆の実相を伝え、真っ向から廃絶を唱えたい。被爆70年の年に核拡散防止条約(NPT)再検討会議の決裂でしぼんだ機運を取り戻すためにも、日本が積極的に議論をリードしてほしい。

 サミットに合わせたオバマ氏の被爆地訪問を、私たちは望む。7年前のプラハ演説で見せた「核なき世界」への情熱を取り戻し、混迷を極める核情勢を打開するきっかけにしたいからだ。安倍首相の働きかけを求めたい。

(2016年1月6日朝刊掲載)

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