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社説・コラム

北朝鮮「水爆実験」 核開発の成果 国内外に示す/非核化へ対話 政府は訴えて

 北朝鮮の「水爆実験」発表の意図は―。韓国統一省の専門官を務めた広島市立大広島平和研究所の孫賢鎮(ソン・ヒョンジン)准教授(北朝鮮問題)と、朝鮮半島に詳しい島根県立大の福原裕二准教授(国際関係史)に、被爆地の役割とともに聞いた。(水川恭輔)

広島市立大広島平和研究所 孫賢鎮(ソン・ヒョンジン)准教授

 「初めての水爆実験」と強調したのがポイントだ。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が核開発を父から引き継いだだけでなく、主体的に成果を挙げていると国内外に示す狙いだろう。現体制が国内で安定期に入っていることも意味する。韓国や米国の対北朝鮮政策を都合のよい方向へ誘導しようとする、軍事的な揺さぶりがこれを機に強まる恐れがある。

 北朝鮮は発表で、米国の敵視政策に対する自衛的措置を主張していた。体制の維持に向け米国との交渉を望んでいるからだ。国連を中心に国際社会で効果的な制裁措置を講じるだけでなく、米国も担当者レベルの訪朝など、何らかの交渉姿勢を示さないと打開できないだろう。

 実験を最も脅威に感じるはずの韓国民は「またか」と日本に比べ冷めた見方が多いようだ。被爆地広島は韓国をはじめ各国に核兵器の非人道性を訴え、国際社会の危機感と連携の機運を高める役目が求められる。

島根県立大 福原裕二准教授

 国内向け、対外向け、それぞれの思惑が重なり、この時期の核実験実施だったのだろう。

 国内的には、5月に36年ぶりにある朝鮮労働党大会に向けた国威発揚だ。金正恩第1書記の体制は経済力と核武力の向上を国策の2大柱に掲げており、「水爆」でその路線を現実化させたといえる。

 対外的には、昨年末に従軍慰安婦問題で合意した日韓の協調路線に対するけん制が挙げられる。韓国と北朝鮮の南北関係は対話によって軟着陸させるのが重要なのに、北朝鮮が核兵器などの軍事的脅威を振りかざしてそれが難しくならないか、今後懸念される。

 米国は核兵器が北朝鮮を介してテロ国家に渡るのを恐れているが、北朝鮮に戦略的価値をそれほど置いていない。日本政府は核兵器の危険性を米国にあらためて訴えるなど、北東アジアの非核化に向けて各国の対話を地道に呼び掛けるべきだ。

(2016年1月7日朝刊掲載)

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