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社説・コラム

社説 北朝鮮「水爆実験」 暴挙は断じて許されぬ

 北朝鮮がきのう「初の水爆実験を実施した」と発表した。原爆に比べてはるかに大きい破壊力を持つ核兵器を手にした、という自己宣伝だろう。まだ額面通りには受け取れないが、少なくとも4回目の核実験に踏み切ったことは間違いあるまい。

 国際社会に完全に背を向けた暴挙といえよう。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が指導者になってからは2013年2月に続く愚行である。北朝鮮の核実験を明確に禁じた国連安全保障理事会の決議をまたしても無視する姿勢は理解し難い。日本はもちろん、中国やロシアを含む各国が一斉に激しく非難したのは当然だ。被爆地広島からも強く抗議する。

 「核武力発展のより高い段階」「最強の核抑止力を備えた」。北朝鮮が公表した政府声明からは核開発への執着がうかがえる。高度な技術力が必要な水爆実験だったかどうかには懐疑的な声もあるが、それにつながる技術開発の一環だとする専門家の指摘も見過ごせない。

 もう一つ気掛かりなのは声明で核兵器の小型化を強調していることだ。この10年間に、ミサイル搭載をはじめ、実戦使用の危険度が一層、高まったと見なさざるを得ない。

 独り善がりに核保有を正当化する論理は通用しない。国際的な孤立を招くだけだ。それを金第1書記が理解しているとは到底思えない。

 なぜ今、核実験を強行したのかを冷静に見極めたい。

 まずは米国の関心を引き付けたい思惑が考えられよう。オバマ米政権のイランやキューバに対する融和外交を横目に、中断している米朝の直接対話の再開を狙ったのかもしれない。金第1書記が権力を継承して4年近く。有力者の粛清が続く中で、足元の求心力を高めるためとの見方もできよう。

 一方で中国との関係は急速に冷え込み、日本との交渉も行き詰まっている。追い込まれた末の「瀬戸際外交」にも映るが、これまでと違うのは明らかな唐突感である。つまり国際社会が予測不能の行動に出る恐れが強まったともいえよう。

 しかしどんな背景があるにせよ非人道的な核兵器を外交カードにし、国威発揚や権威の裏付けに使おうとする考えは断じて許せない。世界はいま核廃絶への歩みが停滞し、テロ勢力への核兵器流出も懸念されている。その中での北朝鮮の行為は時計の針をさらに戻しかねない。

 国際社会の総意で対応すべきである。国連安保理は核実験のたびに制裁を決議し、段階的に強化してきたが暴走を止められていない。制裁のさらなる強化が必要との声も出よう。

 日本は拉致問題の再調査で北朝鮮と協議しているが、悪影響は避けられまい。いったん緩めた制裁をどうするかも含めて仕切り直さざるを得まい。安倍政権の対朝外交が問われる。

 これまで関係国の努力が不足していたのは否めない。今回も早くから核実験をにおわせていた北朝鮮に対し、有効な手だてが講じられなかった。

 北東アジアの非核化を話し合う6カ国協議も長く中断したままだ。日韓、日中の関係悪化などの隙を突かれた面もあろう。

 北朝鮮の核問題がより深刻な局面を迎えた以上、核を放棄させる新たなシナリオを早急に検討すべきではないか。

(2016年1月7日朝刊掲載)

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