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社説・コラム

社説 国会論戦スタート 野党は戦略を練り直せ

 与野党の国会論戦がスタートした。安倍晋三首相はアベノミクスへの期待値を高めることで、堅調な内閣支持率を背景に夏の参院選へのさらなる「追い風」を得たいところだろう。

 一方、野党はいまひとつ迫力に欠けるといわざるを得ない。「安倍1強」に対して国権の最高機関たる国会の威信低下が危惧されるにもかかわらず、危機感が足りないのではないか。経済優先を旗印に乗り切ろうとする政府・与党に対し、野党は有権者に選択肢を示せるよう国会戦略を練り直すべきだ。

 おとといの衆院代表質問では民主党の岡田克也代表が「国民への説明から逃げて、逃げて、逃げ回ってきた」と突くと、首相は「政策の提案から逃げて、逃げて、逃げ回っているようでは」と反撃した。臨時国会召集要求を拒否した政権を憲法違反と非難したのに対し、安全保障関連法の対案を民主党は出さなかったではないか、というのだ。

 首相は閉会中審査や年明け早々の通常国会で説明責任を果たしていると答えた上で、逆に「責任政党」と「抵抗政党」のはざまで揺れる民主党に攻勢を掛ける。国会論戦が参院選の前哨戦と化す中、どう実のある議論をつくり出すべきか。

 安倍政権は今月中旬に2015年度補正予算を通した上で、16年度予算を3月中に成立させるのが当面の目標だ。4月には環太平洋連携協定(TPP)の承認案件と関連法案の審議に入ることを想定している。それを早期決着させ、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を前に「サミット・モード」で首脳外交に国民の目を引き付けようというシナリオだろう。

 しかしTPPは国会承認も経ないで国内対策費が計上されている。首相は「公約違反ではない」とするが、農産物重要5項目を関税撤廃の例外とするという国会決議が守られたかどうかについては、JAなどを中心に異論が噴出している。

 本来なら野党が異論や不満の受け皿になるべきだが、そうはなっていない。国論を二分した安保法の折もそうだ。

 そこを見越して巨大与党はスピードを上げ、TPPを参院選の争点にしないよう走り抜ける腹づもりだろう。協定批准の是非も含め、徹底審議という歯止めをかけなければ国会は形骸化しかねない。

 そのためにも、野党は憲法に定められた三権分立を崩させないという共通認識を持って臨むべきだ。そこから有権者に政策の選択肢を示す。小手先の政策論争ではもはや済まない。

 年頭記者会見で明らかにしたように、首相の目標は憲法改正に着手することだ。参院で改憲に必要な3分の2以上の議席を取れると思えば、衆参同日選に踏み切ることも想定される。

 与党の公明党は同日選には反対しているが、一方で野党の統一候補をつぶすこともできる。民主党が同日選を警戒しているように、政治情勢は想像以上に緊迫していよう。

 きのうの参院代表質問で、首相は憲法改正の具体的な項目について「国民的議論と理解が深まる中で、おのずと定まると考えている」と明言を避けた。「国民的議論と理解」は無視できないということでもある。今こそ野党の出番であり、足並みをそろえるべきだ。

(2016年1月8日朝刊掲載)

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