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社説・コラム

社説 電力小売り自由化 再生エネの上積み急げ

 ことし、東日本大震災から5年の節目を迎える。しかし年が改まるごとに、原発事故の教訓は遠ざかる気がしてならない。国民の懸念をよそに昨年、九州電力川内(せんだい)原発が再稼働した。今後、四国電力伊方原発なども動きだす見通しである。

 4月には、電力小売りが全面自由化される。再生可能エネルギーの電気か、原発を含む従来通りの電気か、一般家庭でも選べるようになる。市民の選択が、ひいては国の電力政策に影響を及ぼし得る。この改革を通じ、国のエネルギー政策について考える契機としたい。

 これまで大手電力会社は、地域ごとに独占体制を築いてきた。自由化によって、エリアの垣根を越えた料金やサービスの競争が進むことになる。

 中国地方では、商社など異業種から少なくとも17社が新規参入を検討しているという。割安な料金に向け、さまざまな業界が知恵を絞っていることをまずは歓迎したい。

 だが、課題がある。「太陽光でつくったクリーンな電気です」などと事業者がアピールすることを、経済産業省が禁じる方針であることだ。

 固定価格買い取り制度では、再生エネを後押しするため、家庭も事業所も賦課金を払っている。消費者すべての負担の下で制度が成り立っているのに、特定の事業者だけを利する販売のうたい文句はなじまない、との考え方だろう。

 ところが、これでは消費者の選択肢は狭められかねない。どこで、どのようにして作られた電気であるかも、知りたいポイントである。事業者には、消費者の目線に寄り添い、できるだけ分かりやすい情報を提供してもらいたい。

 問題がもう一つある。再生エネの拡大策である。原発に頼らない電源を希望する消費者ニーズに応え、安定的に増やしていくことが急務となろう。

 国がすでに認定済みの計画分を加えると、再生エネの比率は全電源の20%に近づく。国が昨年夏に定めた2030年時点の電源構成比「22~24%」を踏まえれば、これ以上は大きく増やせないことになる。

 国はもっと長期的な視野で、再生エネの普及計画を練り直すべきではないか。固定価格買い取り制度の賦課金は、10~20年間の買い取り期間が終われば減少していく。つまり将来、燃料の要らない再生エネは、今より安価な電源となる可能性が高い。また、蓄電池の開発が進めば安定した電源になるほか、地産地消型エネルギーの供給にもつながる。こうした視点から、将来の計画をさらに上積んでもらいたい。

 もちろん、原発の在り方が問われよう。国は30年に原発の電源構成比率を「20~22%」としている。東日本大震災前の28%よりは低いが、その先がどうなるかは曖昧なままだ。今後なお、依存度を下げるつもりかどうかをはっきりすべきである。

 その際、原発に依存しない社会づくりが福島第1原発事故の教訓であり、原点であることを忘れてもらっては困る。いつの間にやら安全神話がよみがえり、原発回帰へ歩もうとしている。それを国民が望んでいるはずはない。

 国は、脱原発依存の道筋を描き、国民の前に示す責任がある。

(2016年1月10日朝刊掲載)

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