×

社説・コラム

天風録 「セカイノオワリ」

 新年早々に触れるのをためらってきたのだが、あの名前はどうだろう。NHK紅白歌合戦に出た人気バンド「SEKAI(セカイ) NO(ノ) OWARI(オワリ)」。世も末とはこしゃく、とぼやくのを耳にした若い友人が真意を教えてくれた▲投げやりでも何でもない。むしろ最悪な、この世界に希望を見いだしていく境地を表しているらしい。おみくじで大凶を引いても、いまがどん底なら、これからは上り調子だ―と前向きに受け止めるのと少し似ている▲「この世の終わりか」と観念しかけた原発事故から5年が近い。国会前で「民主主義って何だ」と問うた若者グループSEALDs(シールズ)の奥田愛基(あき)さんは、あの惨事を18歳の時に見た。揺らぐ社会で主権者として目覚め、少年時代とサヨナラしたのだろう▲あす、成人の日。新成人の心構えはどう変わるだろうか。この夏、18歳以上も選挙権を持ち、肩を並べる。大人になる第一歩は酒やたばこなどではなく、政治参加からと受け止めてもいい。乾杯でなく1票なのだ、と▲「セカイノオワリ」の字を並べ替えてみる。カ、ノ、オ、セ、イ…。諦め、つい捨て鉢になりそうな現実にも、そこかしこに「可能性」は潜んでいるのかもしれない。

(2016年1月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ