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社説・コラム

『書評』 「映画女優 吉永小百合」 大下英治著/「吉永小百合の祈り」 NHKアーカイブス制作班編 

表現者のいちずな思い

 なぜ、原爆の惨禍を見つめ伝えるのか? 吉永小百合さんに尋ねたことがある。中国新聞1995年の連載特集「検証ヒロシマ」の取材で手紙を送ると応じてもらった。

 「戦争、核兵器はあってはならない。人間として言い続けるべきだと思うんです」。凜(りん)とした表情で「戦後を強く意識する」とも語った。45年3月10日に起きた東京大空襲の3日後に渋谷区で生まれた。

 広島との出会いは、66年の日活映画「愛と死の記録」。原爆ドーム内のロケは胸が締め付けられる緊張感を覚えた。81~84年にNHKで放送された「夢千代日記」では胎内被爆した芸者を演じ、「つらいからこそ優しくなれる」ことを学んだという。86年、東京で反核集会に参加して原爆詩を朗読。以来、平和活動に取り組む広島の高校生とも交流を深めた。

 「映画女優」は、最新作「母と暮(くら)せば」を語る本人や119本を数える出演作の監督・共演者の証言を軸に戦後を代表する俳優の歩みを描く。著者は広島出身の作家で被爆者でもある。

 「吉永小百合の祈り」は、昨年に放送された同名番組を基に書籍化。朗読CD「第二楽章 福島への思い」も発表した胸のうちを丹念に聞く。

 ひたむきに演じる、語り掛ける。いちずな表現者の軌跡や思いが伝わってくる。ただ、原爆詩の朗読活動をめぐり両書には勘違いも。86年に渋谷・山手教会で読んだのは、広島の大平数子さんの「慟哭(どうこく)」と長崎の福田須磨子さんの「夏の夜空に聞こえる声」の2編。初めて広島の被爆者の前でも朗読したのは90年だ。大切な活動の記録として補っておく。(西本雅実・編集委員)

『映画女優 吉永小百合』 朝日新聞出版・1836円

『吉永小百合の祈り』 新日本出版社・1404円

(2016年1月10日朝刊掲載)

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