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社説・コラム

社説 サウジ・イラン断交 国際的危機をどう防ぐ

 混迷の中東情勢に年明けから新たな火種が加わった。イスラム世界の両大国、サウジアラビアとイランの断交である。日を追うごとに両者の対立は緊迫の度合いを増している。

 過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅に向け、各国と力を合わせるべきときだ。ここは両国とも冷静になって行動を自制してほしい。国連も含めて国際社会としても対話を促し、収拾を急ぐ必要がある。

 発端はシーア派の宗教指導者ら47人をサウジ政府が処刑したことである。シーア派が多数を占めるイランで群衆が反発し、サウジ大使館を襲撃した。これに対してサウジは外交関係断絶を宣言し、周辺のバーレーンなども追随した。

 非難合戦はエスカレートするばかり。イランはイエメンの自国の大使館がサウジから爆撃されたと一方的に主張している。

 問題の根が深いのは、長年の確執が背景にあるからだ。スンニ派とシーア派の宗派対立に加え、主要な産油国同士、利権争いを繰り広げてきた。

 サウジは最近の原油価格の低迷で財政悪化に悩む。そこへ米国がイランと核問題での合意に至り、近く経済制裁を解除するという。それによって一層の原油安が予想される上、イランに原子力利用の道が残されたことにサウジは不満と焦りを募らせている節がある。

 しかし両国の度を越した対立は世界全体にとって迷惑極まりない。原油価格を高騰させる恐れがあり、輸入の4割近くを両国に依存する日本はもちろん、減速傾向の世界経済のさらなる不安定化も考えられる。

 加えて影響が懸念されるのはシリア情勢に違いない。

 イランはロシアとともにアサド政権を支援する。サウジは米国などとともに反体制派の後ろ盾である。この構図が長期化する間に、シリアやイラクでISの伸長を許した経緯がある。

 今月下旬、スイス・ジュネーブでシリア和平に向けた多国間協議が開かれる予定だが、開催を危ぶむ声すらある。サウジ・イランの断交から宗派対立がこれ以上広がれば、イスラム圏における「対IS」の足並みが乱れるのは必至といえる。つまりテロ組織を利するだけだ。

 先週、北朝鮮の4回目の核実験が世界に衝撃を与えた。主張通りに「水爆実験」だったかは疑わしいが、一定の核開発の進展があった恐れがある。

 中東への余波がどうしても頭をよぎる。もともと北朝鮮の核開発にはパキスタンからの技術協力があったと疑われている。そのパキスタンとサウジは意外に関係が深い。

 イランの核開発を気にしてきたサウジにはパキスタンを通じた核武装の野望があるのでは、という指摘が以前からあった。そのことからも危惧されるのは「中東核ドミノ」、つまり核開発競争という負の連鎖である。

 2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で「中東非核化」協議のテーブルに着くことで合意しながらいまだ実現していない。このままなら非核地帯構想は一層遠のくだろう。

 両国の断交は中東の不安定化にとどまらず、世界の危機を招く。なのに今のところ日本政府の反応は鈍い。被爆国としての立場からも外交力を発揮し、平和解決へ存在感を示すべきだ。

(2016年1月11日朝刊掲載)

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