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連載・特集

地域の未来 岩国市長選を前に <上> 基地負担の先に

国頼み 見通せぬ財源 急がれるリスク議論

 任期満了に伴う岩国市長選(17日告示、24日投開票)は、2017年ごろまでに予定される米海軍厚木基地(神奈川県)から米海兵隊岩国基地への米空母艦載機の移転にどう向き合い、将来的なまちづくりを考えていくかが最大の争点となる。3選を目指す現職福田良彦氏(45)=自民、公明推薦=と、元市議の新人姫野敦子氏(56)がいずれも無所属での立候補を表明。一騎打ちとなる公算が大きい。市長選を前に市の現状と課題を探る。

 クレーンが林立し、大型トラックやミキサー車が激しく出入りする岩国基地。艦載機59機の受け入れに向けた国の15年度の関連予算額は過去最多の1019億3700万円(契約ベース)となった。

 市が強調する「移転の是非はまだ結論が出ていない」の立場とは裏腹に、基地内では格納庫や隊員の子どもが通う学校などの建設工事が進み、市中心部の愛宕山地区では家族住宅や野球場などの米軍施設建設が本格化する。市の15年度一般会計当初予算706億8千万円をはるかに超える規模の予算投入で、極東最大級の基地へ変容しようとしている。

当初予算の1割

 基地負担に伴って国から市に交付される補助金などの総額は15年度で78億6500万円。近年は補助対象事業の大型化に伴って増額傾向にあり、当初予算の1割を占める。これまで市は消防防災センターや中学校給食センターの整備、市道改良などに使ってきた。

 このうち08年度からの在日米軍再編交付金はソフト事業にも使える財源で、市は子どもの医療費助成などに充当する。交付は時限立法で21年度まで。市は国に延長を要望するが、見通しは立っていない。サービスを継続する財源確保が大きな課題となる可能性をはらむ。

基盤整備に遅れ

 一方でこれほどの「基地マネー」が入りながら、市議会などでは繰り返し都市基盤整備の遅れが指摘されてきた。例えば公共下水道の普及率は14年度末で33・5%と、公共下水道事業を実施している県内17市町で15番目。県平均の63・7%に比べ著しく低い。

 市は「埋め立て地の市中心部は水はけが悪く、工事に多額の費用が掛かる」と説明する。工事は1969年から始まり、事業計画2千ヘクタールのうち4割以上の860ヘクタールが未着手。老朽化や耐震化対策も重なり、完了がいつになるのかは不透明だ。

 艦載機移転を含む在日米軍再編計画に対し市は08年、基地周辺の環境が悪化しないよう求める43項目の安心安全対策を国に要望。09年には市の重要課題に幹線道路網整備や中心市街地の活性化などを挙げ、実現を求めた。

 市は43項目のうち33項目について「達成または進展中」とする。だが、基地内で艦載機の離着陸訓練をしないことや日米地位協定の見直しなど、米軍が関わる肝心な案件では進展がみられない。

 基地負担の見返りに頼るまちづくりと、その先にある騒音や事件事故などのリスク。同市南岩国町の会社員西川喜美子さん(48)は「移転ありきで、市民生活への具体的な影響や対策が話し合われていない。このまま受け入れていいのだろうか」と不安視する。今のうちに何をするべきか、その議論が急がれる。(野田華奈子)

(2016年1月13日朝刊掲載)

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