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社説・コラム

社説 米一般教書演説 オバマ外交 手詰まりか

 オバマ米大統領が任期中では最後となる一般教書演説を行った。超大国の最高権力者の声明とはいえ、あらためて国民に先人の努力を説いた内容だ。

 国内で起きた過激派組織「イスラム国」(IS)のテロを念頭に、「市民の間の信頼の絆」を呼び掛けた。「米国民と同盟国を守るために必要であれば単独でも行動する」と表明したが、併せて国内政治の立て直しも訴える。この国の矛盾が集約されているともいえよう。

 オバマ氏にとって昨年12月に起きたカリフォルニア州の銃乱射事件は衝撃だった。米中枢同時テロのような大規模で組織的なテロではなく、過激思想に感化された「ホームグロウン(自国育ち)型」という個人的な犯行だっただけに苦悩は深い。

 事件後、オバマ氏は銃規制を強めて、こうしたテロを未然に防ぐ固い意志を示した。米国では過去にも惨劇が起きるたびに銃規制が叫ばれてきたが、実現に至っていない。規制に反発する野党・共和党をけん制する意味を含むとはいえ、米国の銃犯罪の多発は憂うべき事態だ。

 しかし、テロの根っこにある中東の絶望的な現実を克服する外交戦略が今のオバマ氏にあるのだろうか。残念ながら一般教書演説からは見えてこない。

 そもそもオバマ氏はイラク戦争を教訓に、中東への関与を薄める方針にかじを切った。昨年1月の一般教書演説では、アフガニスタンの戦闘任務が終わったことを宣言した。

 しかしアフガンの不安定な治安情勢は続き、在任中の駐留米軍完全撤退を断念せざるを得なくなった。さらにISなどイスラム教過激派の勢いをそぐことも十分できず、シリアの国内情勢は混迷の度を増していよう。

 この手詰まり感は世論調査にも反映し、オバマ氏のIS対策に6割が不満を持ち、5割を超す人が米地上部隊を派遣すべし、と答えている。ならば支持率回復のために派遣に踏み切るのか。それでは過去の戦争の二の舞いになりかねない。

 オバマ氏はイラン核合意を大きなレガシー(政治的遺産)に挙げる。そのイランをIS対策に引き込もうと接近しているが、逆にもう一つの地域大国サウジアラビアを刺激し、両国の断交に至る事態に発展した。米国が中東から手を引くことで起きる混乱に、どのような外交戦略で対処するのか、明確に示してもらわねばなるまい。

 就任後間もなく掲げた「核兵器なき世界」も道半ばである。

 今回の演説で朝鮮半島の非核化に向けたプランを具体的に示さなかったのは看板倒れといっていい。北朝鮮の核実験はオバマ政権下で3回に上り、核問題をめぐる6カ国協議も7年間開かれていない。次期大統領に核問題の解決を引き継ぐための手を早急に打っておくべきだ。

 多様なマイノリティーの支持を集めて大統領に押し上げられたオバマ氏は「民主主義には市民の間の信頼の絆が必要だ」と語り掛けた。また、共和党の大統領選候補指名争いの中で飛び出す排外主義的な主張を「政治家がイスラム教徒を侮辱しても、米国は安全にならない」と批判した。その通りだろう。

 外交戦略は理性や知性に基づき、冷静な判断によって練られなければならない。オバマ氏の最後の1年を注視したい。

(2016年1月14日朝刊掲載)

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