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連載・特集

緑地帯 深作欣二とその周辺 一坂太郎 <8>

 1930(昭和5)年生まれの深作欣二監督の遺作は、「バトル・ロワイアルⅡ」(2003年)である。ただし、撮影が始まって間もなくの03年1月12日、72歳でがんで他界したため、長男の健太がメガホンを引き継ぐ。完成度が高いとは言えないが、軍国少年だった深作の米国に対する不信感、恨みつらみが最も露骨に出ている気がする。

 主人公は、国際指名手配されているテロリスト七原秋也(藤原竜也)。世界に住む63億人にはそれぞれ異なった価値観があるのに、「ひとにぎりの国」が「平和」「自由」を勝手に決めるなと七原は宣戦布告し、総理大臣(津川雅彦)を怒らせる。七原はそれを認めぬ限り、テロはなくならないとも言う。総理大臣は「あの国」の大統領が機嫌を損ねることを、極度に恐れている。「世界は『あの国』を中心に、ひとつになっている」からだ。「あの国」が米国を指すのは言うまでもない。

 これが台本準備稿になると、もっとすごい。ずばり米国大統領が登場し、「今度の爆撃は平和維持活動だ」「七原秋也はあらゆる自由と民主主義の敵だ」といったせりふがある。さすがに、これは映像化されていない。

 深作にはテロを肯定する気など、みじんもなかっただろう。だが、追い詰められたテロリストにも「正義」があり、そこに一切耳を傾けず、ひたすら「超大国」の論理で押しつぶすことこそが危険なのだと訴えるのだ。いまこそ再評価されるべき、不気味な予言のような作品である。(萩博物館特別学芸員=下関市)=おわり

(2016年1月15日朝刊掲載)

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