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社説・コラム

天風録 「夜、安心して眠れる国に」

 「夜、安心して眠れる国にしたい」と台湾の李登輝博士は願った。これからは法で治めるのだ。司馬遼太郎さんと「街道をゆく」の対談で信条を吐露し、程なく初の民選総統の座に就く。20年前のことである▲かつては知識人の青年たちがしばしば、憲兵に寝込みを襲われたという。戒厳令が常に敷かれていた。博士はそれを廃し、大陸由来の「万年議員」を一掃する。新聞が毎朝届くのも文明の証しだ、台湾はそうなっている―と司馬さんは評していた▲その総統の座に程なく民進党の蔡英文主席が就く。私たちは当然独立国だと考える「天然独」の若者世代も動いた。台湾は台湾人のものである―。先の対談で李博士が発言して20年になる▲だが今、台湾ならぬ香港で市民は夜も眠れぬ事件が起きた。中国の指導者に批判的な図書を扱う書店で5人も失踪者が出たのだ。当局の関与が疑われると記者協会などがただしている。一国二制度で言論の自由は保たれているはずではなかったか▲司馬さんまたいわく、国家には適正なサイズがあって中国なら四川省ぐらいである。なるほど「いくつもの中国」でいいではないか。台湾の人たちが行動をもって示してくれよう。

(2016年1月18日朝刊掲載)

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