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社説・コラム

社説 イラン制裁解除 「後戻り」は許されない

 国際社会の喉元に長年刺さっていたとげが、ようやく抜けたといえる。イラン核合意に基づき、欧米などによる対イラン制裁が解除された。

 オバマ米大統領をはじめ各国首脳から「歴史的な進展」と、評価の声が上がる。確かに核開発の進展を外交によって食い止めたことは意義深い。4回目の核実験を強行した北朝鮮の核問題を考える上でも、一つのモデルケースとなり得よう。

 ただ、今なお課題が山積していることを忘れてはならない。合意順守へ向け、引き続き注視が必要である。

 制裁解除で沸き立つのは各国のビジネス界であろう。資源も豊富であり、若年層も多い。日本の自動車、家電業界も市場として注目しており、いずれ鉄道などのインフラ輸出につながる可能性もある。

 半面、米国とイランの急接近は予想外の事態も招いている。米国の同盟国であるサウジアラビアとイランの断交である。もともと対立していたサウジにとってイランと米国の関係改善は容認し難いのだろう。イラン核合意を機に、中東情勢が不安定化しつつあるのは残念だ。

 原油市場への影響も懸念されている。イランは世界有数の産油国。原油の輸出が再開されれば、原油価格がさらに下落する可能性がある。資源を輸入に頼る日本にとっては朗報だが、世界の株式市場に打撃を与えるとの見方もあろう。

 だがそれでも、今回の核合意が外交を通じて不拡散を成し遂げたという点で、重要な意味を持つのは言うまでもない。仮にイランが本当に核武装していれば、周辺国が「核のドミノ」に陥る恐れがあったからだ。

 いまの状況から後戻りをさせず、国際社会として核開発への監視の目を光らせ、歯止めをかけ続けることは長期的には中東の安定化につながるはずだ。これからが正念場である。

 今回の合意でイランに温存されたウラン濃縮や再処理の技術は発電と核兵器の両方に使える二面性を持つ。「イランはいずれまた核開発へ動く」との疑念があるのはこのためだ。しかし核兵器保有の野望を持てば再び国民が疲弊し、国力が損なわれるということを、さまざまな対話の機会を通じてイラン側に伝えていく必要があろう。

 イランの政治体制がどう変わるかも不安材料だろう。最高指導者ハメネイ師は、合意後も米国との関係改善に後ろ向きの姿勢だった。核合意後の昨年10月と11月、2回にわたり弾道ミサイル発射実験を行うなど、国内の強硬派勢力による軍拡路線は消えない。こうした挑発的な動きが続けば、せっかくの国際社会との信頼が崩れてしまうことを肝に銘じてもらいたい。

 米国の姿勢も問われる。オバマ大統領が主導したイランとの核合意に対して、野党共和党が厳しく批判するだけでない。次期大統領に名乗りを上げるヒラリー・クリントン前国務長官もイランの姿勢に懐疑的だ。

 しかしイランへの制裁解除を歓迎する声が世界の潮流となっている以上、米国は各国と結束してイランに合意順守を働き掛ける責務があるはずだ。

 日本も米国などに倣い、制裁解除の方針だ。ただ目先の商機だけではなくイラン問題での地道な働き掛けこそ求められる。

(2016年1月19日朝刊掲載)

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