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社説・コラム

天風録 「新たな火種」

 「捨てた物に限って、すぐ必要になる」といった皮肉には、誰しも思い当たる節があるらしい。そんな経験則を集め、本にもなったマーフィーの法則の一つが「どんな解決策も新たな問題を呼ぶ」▲核問題の決着でイラン制裁が解かれた。産油大国でもあるイランの復権は、宗派対立から国交断絶にまで及んでいるサウジアラビアとの覇権争いの火に油を注ぎかねない。待ってましたとばかりにかの国は、原油の増産にゴーサインを出したという▲だぶついている原油市場からすれば、値下がりに拍車が掛かることになる。景気回復の波が一向に届かず、やりくりに悩む庶民の台所にとっては朗報だろう。とはいえ、物価安が回り回って「デフレ病」に至る怖さも痛いほど知っている▲買い手が思わしくないことも油価を押し下げる。がぶ飲み同然に爆買いしてきた中国経済の減速である。世界の株式市場は、年明けから荒れ模様が続く。中国の行く手を占う国内総生産(GDP)はきょう発表される▲「禍福はあざなえる縄のごとし」との警句もある。一喜一憂するなかれ、だろう。むしろ石油漬けの暮らしを見直し、振り回されぬよう脇を固めるときなのかもしれない。

(2016年1月19日朝刊掲載)

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