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社説・コラム

社説 宜野湾市長選 本当の民意を見定めよ

 米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市の市長選は事前の予想以上の差がついた。名護市辺野古への移設を進める安倍政権が後押しした現職の佐喜真淳氏が、県内移設に反対する翁長雄志(おなが・たけし)知事らが支援した新人候補を下し、再選を果たした。

 「代理対決」の一騎打ちだっただけに知事サイドには手痛い敗北だろう。うたい文句の「オール沖縄」が言葉通りに足並みがそろわず、ほころびを突き付けられたともいえるからだ。

 沖縄では2014年の名護市長選、知事選、衆院選の4小選挙区全てで辺野古反対派が勝利を収めてきた。「連敗」が止まったことで政府側は意を強くしていよう。中谷元・防衛相は早速、移設計画を推進する考えを示した。辺野古沖の埋め立て工事に本腰を入れる構えらしい。

 ただ、この選挙結果をもって沖縄の民意が移設「容認」に転じたとはいえまい。

 宜野湾市の有権者にしても、思いは複雑だろう。選挙戦において佐喜真氏は「危険性の除去が最優先だ」として普天間飛行場の速やかな閉鎖と返還を訴えたものの、辺野古移設の是非は最後まで触れずじまいだった。

 最大の争点とされた辺野古移設への賛否が、必ずしも投票行動に結びつかなかったとの見方もできる。共同通信社の出口調査では辺野古移設への「反対」が56%を占め、「賛成」の33%を上回った。一方で「反対」の有権者の4分の1近くが現職に投票したと答えている。

 その中で有権者たちが一致して求めたのは何か。市街地の真ん中にある「世界で最も危険な基地」をとにかく閉鎖し、よそに持っていってほしい―という一点に尽きるのではないか。

 普天間飛行場の全面返還に日米両政府が合意してから、この4月で20年になる。今に至るまで放置された憤りは察するに余りある。宜野湾の民意をくみ取るなら、辺野古移設を強行する前に飛行場の早期の運用停止や閉鎖こそ急ぐべきだろう。

 政府と沖縄県との対立は既に法廷にまで持ち込まれている。あくまで「辺野古が唯一の解決策」と政府がこだわるほど、住民の苦渋や分断は深まるばかりだ。そもそも問われるべきは、基地負担を沖縄にばかり押し付け続ける「本土」の側である。その視点を欠いたまま、宜野湾の「勝利」を手放しに喜ぶ政府与党の姿勢には疑問を抱く。

 同じ日に投開票された岩国市長選も自民、公明推薦の現職福田良彦氏が3選された。こちらは圧勝といっていい。2期8年の実績に加えて観光振興、企業誘致など地域活性化を強調して幅広い支持を集めたようだ。

 足元の米海兵隊岩国基地は、厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機部隊の移転を控える。その中で福田氏は「基地との共存」を掲げ、移転反対の新人を寄せ付けなかった。

 反対の声が前ほど目立たなくなったと映らなくもない。ただ騒音や事故のリスクがたらい回しされる不安は今なお根強い。

 国の側が選挙の票差だけを見て、民意を甘く見ることがあってはならない。それは宜野湾も岩国も同じことであろう。

(2016年1月26日朝刊掲載)

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