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連載・特集

若者と政治 第1部 主権者教育 <1> 活動の線引き

基準が不明確 疑問の声 「なぜ高校生だけ制限」

 選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる。最初に適用される見通しの夏の参院選に向け、若者に主権者の自覚を促し、政治との距離を縮めようとする試みが始まっている。若者と政治の関わりを、中国地方で探る。

 「法案は立憲主義の破壊だ」「思いを国会に届けよう」―。安全保障関連法案の参院での採決を控えた昨年9月、広島市中区であった法案反対の市民集会。県内の私立高に通う2年生の大窪健士朗さん(17)=広島県熊野町=は、参加者が大声で訴える様子を熱心に見ていた。

現場を訪ねて成長

 平和や人権について学ぶ高校の部活「社会科学研究部」の活動の一環で、仲間2人と訪れた。「法案は賛否が割れているからこそ、集会などを見て考えてみたかった」

 参加者だと誤解されないよう「社研部報道」の腕章を着けていたが、会場で出会った知人の大人に「NO WAR」の人文字に半ば強引に組み込まれ、図らずも反対運動に「参加」する形になった。「これも『政治活動』になるんですかね」と苦笑する。

 18歳選挙権の実施を前に文部科学省は昨年10月、高校生の政治活動を全面的に禁止していた1969年の旧文部省の通知を廃止。新通知は「生徒が国家・社会の形成に主体的に参画していくことが期待される」として、放課後や休日にデモや集会に参加することを認めた。一方、部活動を含めた学校活動では、政治活動は引き続き禁止か制限するよう求めている。

 社会科学研究部は、核兵器廃絶を訴える署名活動にも関わる。顧問の大亀信行教諭(63)は「高校生の活動について保護者や世間が範囲や限度をどう考えるかもあり、政治的だと見られる心配やリスクはある」と受け止める。「ただ、活動の内容を考えて話し合い、現場を訪ねることを重ねて生徒は成長している。国は学校と政治を遠ざけようとしすぎているのでは」と、学校内外の線引きに疑問を投げ掛ける。

 文科省の通知は、校外の活動でも「暴力的になる可能性が高い」「学業に支障がある」ケースなどでは、学校が制限や禁止できるとする。山口県教委は「学校が関われば生徒を萎縮させかねないが、まったく無関係でいいのかとも思う。学校にも教委にも経験の蓄積がないのが現状だ」と説明。中国地方の他の4県教委もまだ明確な基準は持ち合わせていない。

参加への期待募る

 「大人と同じ投票権が与えられるのに、高校生だけ行動を制限されるのはおかしい」。県内の公立高2年の村田真知さん(17)=呉市=は、文科省の通知に疑問を感じる。昨年8月と12月、安保法制に反対する若者グループ「SEALDs(シールズ)」が東京で開いたデモに参加。堂々と発言する同世代の熱気を肌で感じた。

 安保法案のニュースを見るたび「国会で議論が尽くされていない」と不満を感じ、志望大学の見学で東京を訪れたのを機にデモの現場に足を運んだ。「民主主義って何だ」と安保法案への疑問を投げ掛ける大学生たち。大音量の音楽に合わせ、ラップ調で政府の姿勢に異を唱える人もいた。法案に反対する人と、賛成する団体とがにらみ合う場面にも遭遇した。

 村田さんは戸惑いを感じながらも、選挙権を得て政治に参加することへ期待が募った。「誰もが思ったことを言え、行動できるのが民主主義社会なんじゃないんでしょうか。投票権が得られるならそれは、高校生だって変わらないと思うんです」(明知隼二)

高校生の政治活動
 文部科学省は昨年10月、高校生の学外での政治活動を46年ぶりに容認する通知を都道府県教委などに出した。休日や放課後ならデモや集会に参加できるようになった。ただ生徒会や部活動、学校の校内での政治活動は禁止か制限する。旧文部省は1969年、学生運動の広がりを背景に、学校の内外を問わず高校生の政治活動を禁止する通知を出していた。

(2016年1月26日朝刊掲載)

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