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連載・特集

若者と政治 第1部 主権者教育 <2> 10代の胸中

投票 実感乏しく困惑 生活と地続き 教育を

 「夏には選挙があるよね。どうするん?」「行くと思うけど、誰に入れればいいとか分からんよね」。安田女子高(広島市中区)2年の世良早耶佳さん(17)は、教室で交わされた友人の会話を意外な思いで聞いた。「自分は選挙に行けるのが楽しみだけど、みんながそうではないのかな」

 世良さんは、理論的で科学的な思考を養う同校のスーパーサイエンスハイスクールのプログラムの一環で、「18歳の若者は、選挙に参加するのにふさわしいか」を個人研究のテーマに掲げている。

「分からない」大半

 仲間の等身大の考え方を知ろうと、原発再稼働や沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題など、選挙の争点になりそうな時事問題についての考えを同級生49人にアンケート形式で尋ねた。しかし、多くが「分からない」や「考えたことがない」との反応だった。

 「社会に興味がないわけじゃないけど、突然選挙権が与えられても、どうすればいいのか分からないって感じなのでは」。多くの高校生にとっては、政治や選挙とは距離感があると感じている。

 選挙権年齢を18歳以上に引き下げる改正公選法は、18歳以上を対象とした国民投票法に続く形で整備された。国は、10代が選挙権を持つことで、社会の一員であるとの意識が高まり、主体的に政治に関わる若者が増えると期待する。一方、10代から見れば、自発的に要望し獲得した選挙権とは言いがたい。

 「政治や選挙に参加するよう突然言われても、教わってこなかったのだから、今の高校生にとっては青天のへきれき。困惑は当たり前だ」。明治大の藤井剛特任教授(教育学)は、主権者の実感に乏しい現状を当然と考える。

 義務教育や高校ではこれまで、選挙や政治との関わり方を本格的に教えてこなかった。若年層は社会人としての経験も少ない。結果、国政選挙、地方選挙を問わず、若年層の投票率は低い傾向が続く。総務省によると、2014年12月の衆院選の全国の抽出調査では、20歳代の投票率が32・58%で、平均の52・66%を大きく下回り、全世代で最低だった。

地元の課題 教材に

 主権者の自覚をどう育むか―。西区の広島工大高は3年生に週1回、地域の課題を考える教科「時事」を設けている。「政治は自分たちで変えられるという感覚を持たせることが必要」と橋国浩之教諭(54)。広島都市圏と空港間の交通アクセスや、サッカー専用スタジアムの整備、公共交通網の在り方など地元の課題について考えてきた。

 授業で、外国人観光客や修学旅行生向けの旅行プランを考えた野村敬さん(18)は「世の中と政策との関わりを知ることがもっと必要。地域をよくするためにまずできるのが、選挙に行くこと」と受け止める。小倉克己さん(18)は「選挙に興味は湧いてきた。だけど、あまり政治を分かっていない自分が1票を投じる怖さもある」と明かす。

 藤井特任教授は「政治が縁遠いと思っている若者にも『奨学金、返す自信ある?』などと問い掛けると反応がある。働き掛け次第で政治と自分たちの生活が地続きだと実感できる。そうした工夫が教育現場に求められる」と提言している。(新谷枝里子、明知隼二)

(2016年1月27日朝刊掲載)

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