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社説・コラム

『記者縦横』 ヒロシマ 多様な視点で

■文化部・森田裕美

 朝早くから熱気に包まれていた。昨年暮れ、広島市内で2日間にわたり開かれた「被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島」。会場を埋め尽くす市民の姿に、のっけから圧倒された。

 そもそもジェンダーとは「社会的につくられた性差」と説明される。分かりやすく「男は仕事、女は家庭」といった概念が例示されることが多いため、「男女同権」「女性の視点」などと言い換えられてしまうが、そう単純ではない。

 フォーラムは、被爆から70年がたち、ステレオタイプに語られる「ヒロシマ」をジェンダー視点から解体し、問い直そうという趣旨。例えば「ヒロシマ」は無垢(むく)な女性被害者像として描かれることが多く、母親は子どもを守る平和運動の象徴とされがち。「女性化」「母性化」されることで、戦争の加害性やマイノリティーの存在が不可視化されてはいないだろうか。そんな問題意識で、国籍も職業もさまざまな老若男女による実行委員会が、2年かけて準備してきた。

 会議は、ありがちな一方通行のイベントではなかった。研究者ら登壇者が問題提起すると、会場も呼応。学生、主婦、被爆者、原発事故被災者たちが相次いでそれぞれの今に結びつけ、自分の言葉で意見を述べた。多様な切り口、多様な参加者が、ジェンダー視点を糸口にお互いを触発し合い、深い思考を促したようだった。

 これまで見えてなかった側面から、記録や記憶を読み直してみる―。戦後71年目を迎えた、私たちの課題ではないか。

(2016年1月29日朝刊掲載)

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