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連載・特集

若者と政治 第1部 主権者教育 <4> 大学の対策

構内投票所 見えぬ成果 行政とタッグ PR工夫

 わたしたちのまちは、わたしたちがつくる―。昨年4月、キャッチフレーズをあしらったポスターやのぼりが山口大吉田キャンパス(山口市)に並んだ。構内に1日限定で設けられた山口県議選の期日前投票所をPRするため、山口市選管が飾った。当日はご当地アイドルグループによる歌の披露もあり、学生たちの人だかりができた。

住民票移さず通学

 だが、投票所となった大学会館で票を投じた大学生はわずか。投票者総数は103人で、ターゲットにしていた20~24歳は32人止まりだった。教職員の利用が多かったとみられる。同大学は1学年当たりの学生数が約2千人に上るだけに、市選管の担当者は「もうちょっと来てもらえると思っていた」と残念がった。

 ことし夏の参院選では、広島大(東広島市)や福山市立大(福山市)など、期日前投票所を設ける大学が増える。選管は10代を含めた学生の投票を期待するが、投票箱を置いただけでは多くの学生は訪れそうにない。

 山口大は要因の一つに、住民票を挙げる。下宿生の多くが、手続きを面倒がるなどして実家から住民票を移していない。同大の昨年7月の調査では、約8割が現住所に置いてなかったからだ。ただ、問題はもっと根深いとの指摘がある。

 「同じ世代の大学生たちには、『政治は自分にあまり関係ない』という意識が結構あるように感じる」。広島修道大4年の山村駿さん(23)は、若者の低投票率には政治的な無関心が影響していると推測する。2014年の衆院選前、学生たち有志と共に「投票に行こう」と若者に呼び掛ける街頭活動を広島市中区の繁華街で実施したが、反応は冷ややかだった。

 昨年4月の広島市長選後は、中区で投票をしたかどうかを尋ねる街頭アンケートを有志と一緒に実施。棄権した若者たちには、旅行や遊びを優先させた人が目立った。「暮らしにつながる選挙や政治について、もっと考えてほしい」と山村さんは願っている。

高校より動き鈍く

 選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることを受け、高校は主権者教育の充実に力を入れ始めた。各大学も、期日前投票を呼び掛けるポスターを張ったり、18歳選挙権を説明するちらしを入学時に配る計画を立てたりするが、「高校に比べ、主権者教育という面では動きが鈍い」との指摘が大学内外にある。

 打開を目指す動きも出つつある。広島大は26日、東広島市と学生向けの選挙講座を初めて開いた。参加は発表役の学生も含めて8人だったが、市教委生涯学習課の古本克志課長は「講義の一環に組み込んでもらうなど、今後工夫していきたい」と話す。

 13年の参院選で全国に先駆けて期日前投票所を設けた松山大(松山市)では、一部の講義で市選管のPRタイムを設けたり、選挙公報を食堂の全テーブルに置いたりしてきた。13年の参院選では、市全体の投票率が前回を下回る中、20歳代前半の投票率が上がった。

 松山大法学部の甲斐朋香准教授(行政学)は「大学は専門性や自由度が高いという強みがある。普段から、若者がリアルな政治に触れる場づくりに一役買えるはずだ」と高校にない取り組みを求めている。(新谷枝里子、明知隼二)

(2016年1月29日朝刊掲載)

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