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連載・特集

若者と政治 第1部 主権者教育 <5> 行政の模索

単発の催し啓発に限界 地域全体で永続的に

 「高度な救急医療に対応できる病院は瀬戸内海側に集中しています。ドクターヘリの充実についてどう考えますか」。山口県議会が20日に初めて開いた「やまぐち高校生県議会」。「議員」に選ばれた慶進高2年白川楓さん(17)=山陽小野田市=は、チームで練り上げた質問を村岡嗣政知事にぶつけた。

 県内17高校の生徒47人が地域ごとに10チームに分かれて参加。看護師を目指す白川さんが、チームのテーマに「医療」を提案した。「質問をつくる過程で、県内の地域医療の状況を知った。地域や国を良くするには、まず知ることが大事だと感じた」と話す。

 高校生県議会は、山口県議会が開催を主導した。新年度からは中学生にも対象を広げる。岡山大大学院教育学研究科の桑原敏典教授(社会科教育学)は「学校現場は、校内だけで主権者教育を進めようとせず、生徒と実社会を結び付けるコーディネーターの役割を果たしてほしい」と求める。

出前講座の開催増

 選挙権年齢の引き下げを受け、文部科学省は昨年10月に出した主権者教育に関する通知で「選管との連携」を明記した。高校では、県選管や県明るい選挙推進協議会による選挙出前講座の開催が相次ぐ。広島県内では昨年度の3件から予定も含め18件に急増。教育行政と選管などとの協力は、進みつつあるようには見える。

 ただ、広島県内の公立高の社会科教諭(56)は「カリキュラムは詰まっている。当面は1~2時間を捻出して出前講座を依頼するのが精いっぱいだ」と明かす。積極的な取り組みは、一部の高校にとどまる。

 出前講座を主に担う選管だが、これまでの若者へのアピールが効果を上げてきたとは言い難い。各県や市町村の選管は、若者に投票を促すため、街頭でのティッシュ配りや成人式での模擬投票を実施。広島県選管は2013年の参院選前に、若者が街中で突然踊りだす「フラッシュモブ」の新手法にも挑んだ。

 しかし広島県選管の抽出調査では、13年の参院選で広島県内の20~24歳の投票率は25・54%。最も高い70~74歳の67・91%の半分以下にとどまった。選管内には「単発の啓発イベントでは効果は限定的だ」との声も漏れる。

縦割り排除が課題

 そもそも主権者教育の主体はどこにあるのか。広島県選管は「主体はあくまで県教委」との立場を示す。一方、県教委は、実際の教育内容は学校現場に委ねている。「育てたい人材像を共有し、現場の疑問にも丁寧に対応している」とするが、縦割りを排した体制づくりに課題が残る。

 今後、都道府県の姿勢によって取り組みに差が出てくる可能性もある。宮崎県選管は昨年10月、県教委と連携して県内の全高校生約3万人を対象に初のアンケートを実施。同選管は「投票を呼び掛ける以前の啓発の充実が必要だ」と、家庭への働き掛けを含めた啓発の在り方も探る。

 桑原教授は「主権者教育の機運を、参院選の投票率向上を目指すだけの一過性に終わらせてはいけない。地域全体で、長い目で主権者を育てる取り組みを根付かせてほしい」と注文する。選挙前のイベントから、永続的な「人づくり」へ。根本的な考え方の転換が求められている。(明知隼二)=第1部おわり

(2016年1月30日朝刊掲載)

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