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社説・コラム

社説 高浜原発再稼働 30キロ圏に同意権認めよ

 福井県の関西電力高浜原発3号機は、周辺自治体の十分な理解を得ないまま再稼働に至った。事故を想定した広域の避難訓練もしていない。原発への賛否を抜きにしても、不安を覚える人は少なくなかろう。

 福島第1原発事故後の新規制基準下での再稼働は鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原発に続き2カ所目だが、より複雑な問題を抱えている。まず第一に、国が避難計画づくりを求める原発30キロ圏が3府県にまたがる点である。

 各知事のスタンスは対照的だった。福井県知事の前向き姿勢に対し、京都府と滋賀県の両知事は不快感や遺憾の意を示した。京都の山田啓二知事が「今後も文句を言い続ける」と述べたのは、再稼働の同意権が認められなかったからに他ならない。  30キロ圏の人口18万人のうち福井は5万人。一方で京都府舞鶴市は事故時に即時避難する5キロ圏に入り、滋賀県には「近畿の水がめ」琵琶湖もある。両府県にすれば避難計画などの義務ばかり増える割に、権限が不十分なのは承服しがたいのだろう。

 国は地元同意を再稼働の前提条件とするが、対象は立地自治体とその県にとどまる。ただ原発事故が起きれば影響は広い範囲に及ぶ。これは高浜に限った問題ではない。青森県の大間原発の建設をめぐり対岸の北海道函館市が建設差し止め請求の裁判を起こした。愛媛県の伊方原発や島根原発でも同じような混乱が起きないとは限らない。

 この際「地元」の定義を30キロ圏とし、同意権を認めるべきだ。周辺自治体が「当事者意識」を持てば住民避難もスムーズになり、あらゆる角度から原発の安全性をチェックできる。電力会社は同意取り付けが一層難しくなると考えるだろうが、世論が割れる再稼働に踏み切るからには労を惜しんではならない。むろん国も積極的に間に入って調整役を務めるべきだ。

 しかし高浜についていえば、国は関電に肩入れしていたのではないか。高速増殖炉もんじゅが頓挫し、原発由来のプルトニウムが増え続けている。核兵器に転用する意思がないことを示すためにも、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル方式の高浜の再稼働を待っていたはずだ。

 MOX燃料は通常の核燃料に比べ、核分裂の制御棒の効きが悪くなる。安全性の課題に加え、使用済み燃料の再処理工場のめども立っていない。高浜の保管容量も既に3分の2が埋まっている。すべての原発にいえることだが、「核のごみ」の行き先がないまま再稼働を推し進めることには異議がある。

 関電が再稼働を急ぐのは、代替火力の燃料費負担が増え収益が悪化しているからだ。来月には高浜4号機も動かす計画で大飯など老朽原発の再稼働も視野に入れる。4月の電力小売り自由化を前に原発の「安い」電気で顧客を囲い込む狙いだろう。ただ客の側も発電手段や供給元の企業姿勢も見定める時代となることを忘れてはならない。

 原油安が続く。電力各社は収益が改善した今こそ、足元を見つめ直すべきではないか。原発依存度の引き下げは政府が掲げるまでもなく、福島事故を知る国民の願いである。間もなく事故から5年の節目を迎える。原発の在り方やこれからのエネルギー政策を再考したい。

(2016年1月31日朝刊掲載)

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