×

社説・コラム

社説 米大統領選幕開け 超大国の「ゆがみ」映す

 米大統領選が事実上、幕開けした。11月の本選に向けた民主党と共和党の候補者指名争いである。世界中の注目を集めた初戦アイオワ州の党員集会は、両党ともまさに大混戦だった。

 それぞれ非主流派が支持を広げる点で、過去の前哨戦と明らかに様相が異なる。特に注目されるのは次期大統領に近いといわれてきた民主党のクリントン前国務長官が勝利宣言したが、大苦戦を強いられたことだ。

 「民主社会主義者」を名乗ってリベラル派や若い世代の支持を伸ばすサンダース上院議員に互角の戦いに持ち込まれた。クリントン氏は8年前、本命視されながらアイオワ州で敗北を喫している。悪夢の再来は避けられたが、来週に予備選があるニューハンプシャー州はサンダース氏の地盤と聞く。女性初の大統領を目指すクリントン氏の戦略が再び揺らぐ可能性もある。

 一方、共和党の党員集会では支持率トップだった実業家のトランプ氏が2位に甘んじた。ある意味では予想通りともいえようか。イスラム教徒の入国拒否を口にするなど排外主義を露骨に示し、数々の暴言で物議を醸してきたが、世論調査における人気が集票力に結び付くかは疑問視されていたからだ。

 逆転でアイオワを制したのも非主流派だ。保守強硬派の急先鋒(せんぽう)とされるクルーズ上院議員である。州内に多いキリスト教右派の票固めに成功したという。中東政策などで危うさも指摘されるだけに、党主流派からすればトランプ氏に迫る勢いのルビオ上院議員の方に期待したいところだろう。ただ展開が見通せないのは民主党と同じである。

 両党とも「本命」が読み切れない現状からうかがえるのは、米国内の深い政治不信だろう。「共和党と民主党の職業政治家に失望する全ての米国民の勝利だ」とするクルーズ氏の言葉が図らずも物語っていよう。

 米国政治が抱える「ゆがみ」と言い換えてもいい。何よりの背景には、世界で独り勝ちの経済的活況の陰で広がる格差がある。社会を支えてきた中間層が先細り、閉塞(へいそく)感と将来への不安が募っているのは疑いない。

 なのに8年の任期を終えるオバマ政権下の政治はどうだったのか。確かに外交政策で一定の成果は挙げたものの、大統領本人が悔やむように不毛な党派対立が加速し、国内政策が前に進まない状態に陥っている。

 移民への偏見も隠そうともせずに「米国を再び偉大な国に」と叫ぶトランプ氏。格差是正のほかに「反大企業」や富裕層の増税、公立大の授業料無料化を真顔で語るサンダース氏。クリントン陣営に象徴される既存の政治勢力に信を置かず、こうした主張が一定の支持を集めるのはなぜか。つまるところ米国社会が両極端に分断されつつあることの証しではないか。

 両党の党大会がある7月まで長く厳しい候補者選びは続くだろう。ただ米国が世界の行方を左右する大国であることを忘れてほしくはない。内向きの鬱憤(うっぷん)を吸収する場では困る。

 国際社会と協調して中東問題やテロ対策、対中国政策などにどう向き合うか。道半ばの「核兵器なき世界」をどう実現させるのか。自国が主導した環太平洋連携協定(TPP)の真の功罪は…。議論を尽くしてもらいたいことは山ほどある。

(2016年2月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ