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社説・コラム

『潮流』 理系も文系も

■文化部長・渡辺拓道

 高校に入って初めての中間試験だった。物理の問題を見て嫌な予感がした。繰り返し読んでも理解できない。後日の追試で救われたが苦手意識は消えず、進学するなら文系だと決めた。選択の余地がなかったからだ。

 幸い、仕事で数式や物理の方程式の知識を問われる場面もなく今に至った。一方、なぜか宇宙の成り立ちや、物質を構成する基本的な粒子のニュートリノなどには興味があった。極小の研究が宇宙の解明につながる不思議さ、夜空を見上げる人間の精神という最も「人文」的な一面もある奥深さに引きつけられた。

 日本の惑星科学の第一人者である松井孝典さんの「宇宙誌」を繰り返し読んできた。ゴーギャンの絵のタイトルとして知られる「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を引用。「何であるか」ではなく「なぜか」と人間存在の本質を問うなら、「科学はいや応なく哲学の領域に足を踏み入れざるを得ない」と結ぶ。

 この部分を、文系と理系の融合こそ社会の進歩の鍵だと理解していた。それだけに、文部科学省が昨年6月、全国の国立大に宛てた通知に違和感があった。人文社会科学系などの学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を求めていた。文系軽視だと疑問の声が上がったのも無理はない。

 通知をきっかけに、本紙の文化面で1月から「人文学の挑戦」の連載を始めた。初回は原爆文学を取り巻く今と、研究者の思いを紹介した。1年間、文学や哲学、美術、考古学などの最前線を歩き、人間文化の本質に迫ろうとする人たちの息吹を伝えたい。

 連載の目的は理系重視への反論でも文系のえこひいきでもない。あえていえば、国が成長戦略に盛り込んだ大学改革に、効率や成果ばかりの物差しを当てていいのかとの素朴な疑問といえようか。

(2016年2月4日朝刊掲載)

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